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体の構造が車のモデルになった魚? かわいい見た目からは想像できない防御力を持つ<ハコフグ>

四角い箱のようなかたちをしている魚をご存知でしょうか? そう、ハコフグです。

鱗が発達した骨板に、四角い箱。またその鮮やかな色はとても愛くるしく、水族館やアクアリウムなどで観賞魚としても親しまれています。

この記事では、ハコフグについて、またその体が持つ秘密について紹介していきます。

ハコフグとはどんな魚?毒はあるの?

フグ目ハコフグ科に属する魚は、鱗が発達した骨盤が全身を覆い、硬い甲羅を形成していることが特徴です。全体は三角形や四角形等、丸みを帯びた丸型をしています。

ハコフグ科の魚の特徴

ハコフグ科の魚には、2024年4月時点で6属24種が確認されています(CALIFORNIA ACADEMY OF SCIENCE-Eschmeyer’s Catalog of Fishes 閲覧日 2024/4/11)。このなかには、ハコフグやミナミハコフグ、ウミスズメやコンゴウフグなどが含まれます。

シマウミスズメ(提供:PhotoAC)

いずれの魚も前から見ると四角形、または三角形の箱のような体型をしています。鱗は発達して六角形の骨板となり、それがハニカム構造(正六角形もしくは正六角形柱が隙間なく並んだ構造)となっているのもこの魚の特徴です。

「フグ」とつくからには毒はある?

ハコフグ科の魚はフグの仲間ではありますが、一般的にフグ毒と知られるテトロドトキシンは持ちません。しかし、皮膚にはパフトキシンと呼ばれる毒があり、捕食者から身を守っています。

コンゴウフグ(提供:PhotoAC)

パフトキシンという名称は、ハワイ語でハコフグを意味する言葉「Pafu」に由来しています。この毒は、何らかの刺激を受けるなどで身の危険を感じると皮膚から放出されて、周りにいる他の魚を殺してしまいます。水族館では、この毒により水槽内の魚が死んでしまうこともあるのだとか。

また、ハコフグ自身はある程度の耐性を持っているものの、自分にも影響を及ぼして弱ってしまうこともあるそうです。さらにはパリトキシンという別の毒を体内に蓄積していることもあり、その毒による食中毒例が報告されたこともあります。

ミナミハコフグの幼魚(提供:PhotoAC)

フグとは違う毒を持つものの、フグ同様、調理にはフグ処理者の免許が必要です。また、食品衛生法により、ハコフグ科の魚について、パフトキシンが放出される皮、パリトキシンが蓄積している可能性のある肝臓及び卵巣を食べられない部位として指定しています。

車の設計の参考にされたことがある

ハコフグは、意外な分野でモチーフに採用されたことがあります。このモチーフとは、車の構造です。なぜハコフグがモチーフに選ばれたのでしょうか?

ベンツのコンセプトカーの参考になったハコフグ

ドイツを拠点とする自動車メーカーであるメルセデス・ベンツは、ミナミハコフグを模したコンセプトカーを制作したことがあります。その車は、メルセデス・ベンツ・バイオニック。2005年にワシントンD.C.で開催されたダイムラー・クライスラー・イノベーション・シンポジウムではじめて発表されました。

抵抗が低く、強固な外骨格を持つこの魚を「未来のクルマにとって理想の生物」として、バイオニックの造形の手本として採用しました。一見、従来のクルマや多くの水生生物が持っている流線形には見えませんが、空気抵抗の強さを表す空気抵抗係数が非常に低いのだとか。その空気抵抗係数は、それまでの量産車として最低の値であったゼネラルモーターズのEV1が持つ記録0.195よりも低い、0.19と発表されています。

ミナミハコフグ(提供:PhotoAC)

それだけでなく、かかる負荷が少ない部分は柔らかく、負荷が大きい部分は外骨格で補強されているような体の構造や、高度な軽量構造のお手本となる骨板の構造など、ハコフグから学べることは多くあるとしています。

(参考:Bionic Car-Mercedes-Benz Japan

しかし、それには問題が…?「ハコフグの遊泳パラドックス」

しかし、その後2015年に発表された論文では、サンゴ礁のような複雑な環境では、頻繁に高度な機動性を発揮し、素早く方向転換したり障害物を回避したりする必要があるため、泳ぎを安定化させる必要はない」と指摘。この問題を「ハコフグの遊泳パラドックス」と名付け、改めて実験・解説を試みています。

複雑な地形にすむハコフグ(提供:PhotoAC)

この論文によれば、ハコフグの体は一般の魚類と比べて抵抗を低減する性能が少なく、ハコフグの体が抵抗を低減するという従来の理論は否定されるといいます。むしろ、ハコフグの体は流れに対して安定性を向上させるのではなく、逆に不安定にする構造を持っており、これがハコフグの機動性を向上させ、複雑な障害物の多い環境での生存を助けていることが示唆されました(Boxfish swimming paradox resolved: forces by the flow of water around the body promote manoeuvrability、S. Van Wassenbergh、K. van Manen、T.A. Marcroft、M.E. Alfaro and E.J. Stamhuis、2015.2.06)。

この研究によるとハコフグ自体は抵抗も多いうえに安定性が少なく、それを機動力として生活しているそう。しかし、ハコフグの構造が手本にされ、抵抗が少ない車が生み出されたのもまた事実です。違う分野が相互に研究を行っていくことで、新たな仮説や見解が生み出され、技術が促進されていくのは興味深いことですね。

ハコフグの仲間(PhotoAC)

 

秘密いっぱい、魅力的な魚ハコフグ

記事を通して、ハコフグの毒の秘密や体の構造、人間との関わりを見ていきました。その不思議な体の構造が車の設計へ影響を与えたのは、なんともロマンがある話ではありませんか?

人間が巻き起こした議論などはつゆ知らず、チャーミングに泳ぎ続けるハコフグの仲間たち。ますますこの魚たちの魅力を追ってみたくなりますね。

(サカナト編集部)

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サカナト編集部

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