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関東地方に現れる<チョウチョウウオ科>の魚たち 可愛らしいけど飼育は困難?

綺麗なチョウチョウウオ科の魚。冒頭の写真(サムネイル)に映っている魚たちは、沖縄など熱帯の海で採集した……というわけではなく、千葉県房総半島の磯で採集したものです。

夏から秋にかけて、関東地方の磯でもチョウチョウウオ科の魚の幼魚が多数見られます。今回は関東地方で採集できるチョウチョウウオについてご紹介します。

なお、一般的に「チョウチョウウオ」といった場合、種標準和名のチョウチョウウオを指す場合のほかに、上記の種が含まれる、魚類の分類単位(チョウチョウウオ科、チョウチョウウオ属)を指す場合があります。

ここでは、上記の種標準和名チョウチョウウオを「チョウチョウウオ」、チョウチョウウオ科魚類全般を「チョウチョウウオ科の魚」と呼んで区別します。

なお、ここでは海水魚の飼育についても扱っています。海水魚は真水(淡水)で飼育することはできません。また海水魚飼育の設備は淡水魚とは異なるものが必要になります。詳しくは専門誌などをご参照ください。飼育する場合は、絶対に放流することを避け、最後まで飼育してください。

関東の磯遊び事情 近海の磯でチョウチョウウオ?

千葉県の磯でもチョウチョウウオ科の魚に会えるチャンスがある(撮影:椎名まさと)

夏休みになると、関東地方、とくに千葉県の房総半島や神奈川県の三浦半島では、磯遊びをするファミリーの姿をよく見かけます。ハゼを捕まえている人、エビを捕まえている子ども、貝の中から出てきたヤドカリにびっくり……。そんな光景は夏の終わりのこれらの地域の風物詩ともいえます。

採集される豊富な魚の中にはスズメダイの仲間やベラの仲間、そしてチョウチョウウオ科の魚など、熱帯性の魚も多く見られるのです。しかし、魚にあまり興味がない人は「こんな近海の磯でチョウチョウウオ?」なんて思うことでしょう。

しかし、実際に磯に出て、美しいチョウチョウウオ科の魚を採集して見せてあげると、しばしその美しさに目を奪われてしまうはず。

片道だけの旅「死滅回遊魚」

チョウチョウウオ科のトリクチス期稚魚。種の同定は難しい。(撮影:椎名まさと)

チョウチョウウオ科魚類の多くの種のような熱帯性海水魚は、琉球列島や東南アジアなど熱帯海域に生息しています。しかしチョウチョウウオ科魚類が産卵した卵や仔魚は黒潮にのり、稚魚やそれより大きな幼魚が夏~秋にかけて本州の関東沿岸付近にまで到達します。

しかしそのような個体は冬になって水温が下がると死んでしまい、片道だけの旅です。これを死滅回遊魚といいますが、近年は海水温の上昇などもあり、冬の寒さの中でも耐えることができた個体もいます。

なお、チョウチョウウオの稚魚は頭部にカブトをかぶせたような独自のすがたをしており、「トリクチス」と呼ばれています。また、この形状でいる期間を「トリクチス期」といいます。チョウチョウウオ科によく似たキンチャクダイ科の魚や、カゴカキダイ科の魚はこのような期間を経ません。

関東に出現するチョウチョウウオ科魚類

関東地方の沿岸(茨城県~神奈川県相模湾沿岸。東京都の島嶼部はのぞく)においては20種以上のチョウチョウウオ科魚類が生息していますが、ここではその中でも代表的なチョウチョウウオ属の6種を紹介いたします。

チョウチョウウオ Chaetodon auripes Jordan and Snyder, 1901

房総半島で採集したチョウチョウウオの幼魚(撮影:椎名まさと)

チョウチョウウオは通称「なみちょう」とも呼ばれる種。「なみ」とは「並」のことで“普通にいるチョウチョウウオ”ということです。

毎年夏~秋にかけて磯で多数見られる種で、九州南部や四国南部はもちろん、本州でも和歌山などでは越冬しているものが見られるなどしており、また宮城県や日本海でも確認されるなど、もっとも温帯に適応したチョウチョウウオ科魚類といえます。

しかしながら和歌山県や高知県などでは、成魚サイズの個体が多数見られるものの、オヤビッチャなどとは異なり、本州南部~九州沿岸では産卵しているかは不明です。

上記個体よりも小さなチョウチョウウオ(撮影:椎名まさと)

幼魚のうちは大きな背鰭軟条部に大きな目玉模様(眼状斑)を有していますが、成魚ではこの模様は消失してしまいます。

飼いやすそうなイメージがありますが、実際には雑食性のチョウチョウウオながら飼育は結構難しいもので、後述するトゲチョウチョウウオよりも難しいといえます。

鹿児島県の離島でオキアミを餌に釣れたチョウチョウウオの成魚(撮影:椎名まさと)

しかしながら成魚は餌釣りで釣れることもあり、臆病で飼育が難しいのは幼魚のみである可能性もあります。普通種である本種は軽視されがちで、このチョウチョウウオをしっかりと飼育するアクアリストがいないのが残念なところです。

チョウハン Chaetodon lunula (Lacepede, 1802)

房総半島で採集したチョウハンの幼魚(撮影:椎名まさと)

「採集した時はチョウチョウウオと思ったけど、なんか違う……」。そのように思ったらチョウハンを疑ってみるべきかもしれません。

チョウチョウウオに似ていますが体がやけに暗く、頭部の白色域の後方に黒色域があること、尾鰭の付け根に黒色斑があることなどの特徴があります。成魚では白色域の後方にある黒色域が伸び、その模様から英語名は「Raccoon butterflyfish」(Raccoonはアライグマ、Butterflyfishはチョウチョウウオ)。

チョウハンの成魚。上記個体とは別の個体(撮影:椎名まさと)

なお、チョウチョウウオ同様、幼魚のうちには背鰭に目玉模様がありますが、成魚では消失してしまいます。丈夫で飼育しやすいといわれますが、幼魚は臆病なようにも思います。ここはチョウチョウウオに似ています。

成魚は大型ヤッコ(ヤッコはキンチャクダイ科の通称)と飼育されることもあるほど強健です。

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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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