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紛らわしいチゴダラ事情 別名は「どんこ」だけど……

チゴダラは別名「どんこ」とも呼ばれている魚であり、こちらの名前のほうが馴染み深いという人も少なくないでしょう。

しかし、ややこしいことに標準和名でドンコといえばまた別の魚を指します。

標準和名ドンコ(提供:椎名まさと)

標準和名「ドンコ」はスズキ目ハゼ亜目ないしハゼ目のドンコ科の一種で、ハゼの仲間としては珍しく一生を河川で過ごす純淡水魚です。

“海のどんこ”は刺身、揚げ物、焼き物、汁物など様々な料理で食することができますが、淡水に生息する“標準和名ドンコ”は刺身にはできません。というのも、淡水魚にはヒトにも伝染するおそれがある寄生虫がいることがあるからです。

しかし、標準和名ドンコも美味しい種とされており、揚げ物や煮物などで食されています。

チゴダラ科の学名

チゴダラでややこしいのは別名だけではありません。学名も少しややこしいことになっているのです。

まず、魚の学名というのは属や種だけに与えられるものではなく、例えば「科」や「目」といった、より上位の分類群にも与えられます。そして、チゴダラ科の学名は“Moridae”。しかしそれによく似た科の学名をもつグループがいます。それがマンボウ科で、その学名は“Molidae”といいます。

学名を使う場面は多くないと思われますが、“Moridae”と“Molidae”は非常に似ているため、混同しないように注意する必要があるでしょう。また、科の学名のもとになった種であるシロダラの学名はMora moroといい、この学名もマンボウの学名Mola molaとよく似ています。

ちなみに、シロダラは東太平洋、インド洋南部、チリ、ファンフェルナンデス諸島、オーストラリア、ニュージーランドに広く生息しますが、日本からの記録はなく和名もニュージーランドで漁獲された個体をもとに付けられました。

エゾアイナメという魚もいる

エゾイソアイナメがチゴダラと同種とされて消える前、エゾイソアイナメについては「えぞあいなめ」なんて呼ばれていたこともありました。今でも、SNSなどでは「ドンコ」「標準和名エゾアイナメ」とする人を時々見かけます。

アイナメ属の魚(写真はクジメ)(提供:椎名まさと)

しかし、標準和名で「エゾアイナメ」と呼ばれる魚は、チゴダラとはまったく異なるグループの魚で、スズキ目アイナメ科アイナメ属、つまり真正なアイナメの仲間で、北海道では「すなあぶらこ」の名前でよく知られる釣りものです。

ちなみに筆者は、アイナメ属の魚についてはアイナメ・クジメ・スジアイナメ、そしてウサギアイナメの4種を釣ったり、触ったり、食べたりしてきたものの、エゾアイナメだけはまだ出会いがありません。北海道太平洋岸からオホーツク海、ベーリング海、北米西海岸にまで分布するとされており、いつか北海道で出会いたい魚のひとつです。

(サカナトライター:椎名まさと)

参考文献

尼岡邦夫・松浦啓一・稲田伊史・武田正倫・畑中 寛・岡田啓介編.1990.ニュージーランド海域の水族.深海丸により採集された魚類・頭足類・甲殻類.海洋水産資源開発センター,東京.

尼岡邦夫・仲谷一宏・矢部 衞.2020. 北海道の魚類 全種図鑑.北海道新聞社,札幌.

Chow S., T.Yanagimoto, K.matsuzaki, K.Kofuji and K.Hoshino. 2019. Little genetic difference between controversial japanese codling species Physiculus japonicus and P. maximowiczi. Aquatic Animals 2019: 1-9.

Herzenstein, S. M. 1896. Uber einige neue und seltene Fische des Zoologischen Museums der Kaiserlichen Akademie der Wissenschaften. Ezhegodnik Zoologicheskogo Muzeya Imperatorskoy Akademii Nauk v. 1 (no. 1): 1-14.

Jordan, D. S., S. Tanaka and J. O. Snyder. 1913. A catalogue of the fishes of Japan. J. Coll. Sci., Imp. Univ. Tokyo, 33: 1?497.

中坊徹次編. 2013.日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会.秦野.

中坊徹次編. 2018. 小学館の図鑑Z 日本魚類館.小学館.東京

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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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