11月初旬、久しぶりに沖釣りをするため、静岡県・御前崎港の遊漁船「輝風丸」さんを訪れました。
ターゲットは、おいしい魚なら何でもOKの“五目釣り”。様々な魚と出会えることがこの釣りの魅力です。
そして、今回はなかなか手に入れることのできないレアな魚との出会いがありました。
それがツキヒハナダイです。
御前崎の沖で初見の魚と出会う
レアな魚<ツキヒハナダイ>との出会いがあったのは、水深約100メートル前後を流していた時のこと。ヒメダイやチカメキントキなどが釣れる中、乗船者の世話を行う船の仲乗りさんが、見慣れない魚を私に持ってきてくれました。
以前から輝風丸さんとはSNSで繋がっていたこともあり、船の方々には私が少し魚に明るいことを知ってもらっていたため、私のもとに持ってきてくれたという訳です。
目にしたことがない魚が手のひらに
私の手のひらへとやってきたのは、全長20センチくらいはあろう赤い魚。私自身、目にしたことがないことは明白でした。
じっくりと観察していくうちに頭の中に浮かんだ魚種は、カワリハナダイ(Symphysanodon katayamai Anderson, 1970)。
もちろん確証はなく、全く違う種類の可能性も大いにあるので、スマホを開いたのですがネットが繋がらない海域だったので、その場で調べるのは断念しました。
ただ、希少な魚だということはなんとなく感じたので、釣り上げた方と輝風丸さんに許可を得てその魚を譲っていただけることに。釣りのターゲットとはなり得ない魚種だったこともラッキーでした。
レアな魚の正体は<ツキヒハナダイ>
目の前の釣りに夢中だったこともあり、私の思考もカワリハナダイで止まってしまったのですが、しばらくして電波が届く場所に移ると仲乗りさんは早速検索。
すると、カワリハナダイ科のツキヒハナダイ(Symphysanodon typus Bleeker, 1878)であることが判明しました。
ツキヒハナダイ(撮影:魚屋天然堂)なんとこの魚、2008年に鹿児島県奄美大島海域で国内初の記録が報告されてから、石垣島、高知県、和歌山県、相模湾などからわずかに記録されたのみにとどまり、さらに世界的にも捕獲事例の少ないとんでもなくレアな魚種だったのです。
そりゃ種名が頭に浮かばないわけですね。
レアなツキヒハナダイの味は?
筆者は、趣味で魚類のはく製づくりをしています。私がはく製を作る場合、最初に防腐処理を行わないため、剥いた中身は食することが可能です。そこでツキヒハナダイも試食してみることに。
身の色は若干ピンクがかった白身で、血合いの色もきれいです。
まずは何も付けずに一口目。身の触感はねっとりしていて、かつ嫌な柔らかさではない感じで魚の旨味はしっかりしています。
ツキヒハナダイの刺身(撮影:魚屋天然堂)次にわさび醤油に付けてみると、軽く醤油に脂が広がります。
口当たりは変わらず、塩味が加わることで身の甘みも感じて、なんだか甘エビのような味。実にうまい魚でした。
とはいえ20センチ程度の小魚ということもあり、ほんの4切れで無くなってしまいましたが……。
シキシマハナダイの食味と比較する
比較用として、一緒にシキシマハナダイも食べてみました。美味しさは甲乙つけがたいですが、身の締まり具合など食味の方向性にやや違いがあるように感じました。
シキシマハナダイ(撮影:魚屋天然堂)ツキヒハナダイはどちらかというとアマダイ釣りなどで混じってくる、通称「赤ボラ」と呼ばれるヒメコダイ(Chelidoperca hirundinacea (Valenciennes, 1831)に近いでしょうか。
甘みなどはヒメコダイには及ばないものの、味は近い雰囲気でした。

ヒメコダイのはく製(制作・撮影:魚屋天然堂)
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