様々な生存戦略が繰り広げられてる海の中。カモフラージュは多くの生物が獲得した戦略と言えるでしょう。
ナマコウロコムシはナマコ類の体表に寄生する寄生性の小型多毛類です。本種の大きな特徴は、その“擬態能力”。なんとナマコの種類によって、寄生しているナマコウロコムシの色が異なることが知れているのです。
しかし、この体色について、詳しいことはわかっていませんでした。そうした中で、京都大学の杉山高大氏らによる研究グループは琉球列島からナマコウロコムシを採取し、本種と宿主における色彩パターンの一致を明らかにしました。
この研究成果は「Marine Biology」に掲載されています(論文タイトル:Host specific camouflage in a holothurian-ectoparasitic scale worm: testing the host-race hypothesis using COI and genome-wide SNP data )。
海の中のカモフラージュ
海の中では様々な生存戦略が繰り広げられいますが、カモフラージュは多くの生物が獲得した戦略かもしれません。
擬態するピグミーシーホース(提供:PhotoAC)カモフラージュでは周囲の環境に応じた体色を持つことで、自らの身を隠し捕食者や獲物から気づかれないようにすることが可能です。
同化する対象は岩やサンゴ、海藻などバリエーションに富みますが、寄生性の生物においては宿主と同じ色を獲得し、身を隠すことが知れています。
ナマコウロコムシの保護色
ナマコウロコムシ Gastrolepidia clavigera はナマコ類の体表に寄生する小型の多毛類で、驚くべきことに宿主の色によって、白、黒、茶など体色が異なることが知れています。
寄生性の生物においては、宿主の種によって種分化した集団「ホストレース」や隠ぺい種が報告されてきました。そのため、このナマコウロコムシの体色の変異についても、その可能性があるとされたのです。
そこで、京都大学の杉山高大氏らの研究グループは琉球列島からナマコウロコムシを採取し、その保護色について調査・研究を行いました。
ナマコウロコムシの体色は宿主によく似る
研究では琉球列島のナマコ14種からナマコウロコムシが得られており、うち6種は宿主として初記録となっています。
これらについて、ナマコウロコムシと宿主における体色の一致パターンを確認したところ、いずれのナマコから採取された個体も宿主と、よく似た体色を有していることが明らかになりました。
宿主の1つジャノメナマコ(提供:PhotoAC)また、先行研究の結果を加え、ナマコウロコムシが31種ものナマコを宿主として利用していることが判明し、それぞれに応じた保護色を持つこともわかっています。
遺伝的な違いはない
この保護色について、遺伝的分化に基づくものなのか否かを確かめるために、ミトコンドリア遺伝子とゲノム情報の比較も行われました。
その結果、宿主や体色の違いによる遺伝的な違いは見出されず、ナマコウロコムシの保護色が遺伝的分化によるものではなく、宿主によって後天的に獲得したものであることが示唆されています。
このことから、本種は宿主によって体色を柔軟に変化させることで、自らの身を隠していることがわかったのです。
保護色が変わるメカニズム解明へ
今回の研究では、ナマコウロコムシが利用する宿主や体色の違いにより、遺伝的な違いがないことが明らかになりました。このことは、本種の保護色は遺伝的分化によるものではなく、後天的に獲得したものと示唆しています。
一方、ナマコウロコムシがどのようにして宿主に応じた体色を獲得しているのかは謎に包まれているといいます。今後の研究ではそのメカニズム解明にも取り組むとのことです。
(サカナト編集部)