スペイン・カナリア諸島の海底生態系を形成する重要な生きものがいます。それが、Diadema africanumというウニです。
しかし近年、広範囲にわたる同種の死亡が報告されています。これはカナリア諸島全体で起きており、中でもテネリフェ島における個体の密度は99.66%も減少したといいます。
この現象は、専門誌 Frontiers in Marine Science に掲載された最新の研究によって、包括的に評価されました(論文タイトル:Insights on the last sea urchin Diadema africanum mass mortality suggest a worldwide Diadematid pandemic in 2022-2023)。
研究チームは、2022〜2023年にかけてカナリア諸島各地で観測された大量死の広がりや生態系への影響を調査。地球規模で似たような大量死が起きているとの共通パターンを明らかにしています。
ウニの減少に気付いたのは地元のダイバー
Diadema africanumの減少という異変に最初に気づいたのは、カナリア諸島で潜水を続けていたダイバーたち。サンゴ礁一面に見られていたウニが、ある時期から急激に減り始めたといいます。
カナリア諸島・テネリフェ島(提供:PhotoAC)調査の結果、2021年と比較した個体数の密度がラ・パルマ島で73.8%、テネリフェ島では99.66%も減少。研究者はこの状況を「モニタリング開始以来の最低密度」としています。
さらに注目すべきなのは、この現象が一地域にとどまらなかったことです。
同じ時期に、カナリア諸島からは遠く離れたカリブ海や地中海、紅海、オマーン湾、西インド洋などでも近縁のウニ類が同様に大量死していることが確認されました。
大量死の原因は未だ不明
原因については、ウイルスや細菌、原生生物など複数の病原体が候補として挙げられていますが、現時点では決定的な要因は特定されていません。
ウニの仲間(提供:PhotoAC)共通して観察されるのは、動きが鈍くなり、トゲが抜け落ち、最終的に殻だけが残るという経過だといいます。
そして、最も大きな問題は、減少後の回復が進んでいない点です。
2022〜2023年の大量死以降、カナリア諸島の多くのリーフでは幼生や稚ウニがほとんど確認されておらず、研究チームは「局所的絶滅のリスクが現実味を帯びてきている」と指摘しています。
ウニの群れのイメージ(提供:PhotoAC)一方で、東南アジアやオーストラリアなど、まだ大規模な被害が報告されていない海域もあるようです。
サンゴ礁の草食動物がいなくなる?
日本では昨今、磯焼けの原因としてウニの大量発生が注目されていますが、一方で世界を見ると、種は違えどウニの仲間が大幅に減少している地域もあるのです。
ウニの減少は、単に一種の生きものが減るという話ではなく、サンゴ礁という生態系全体のバランスが変わりつつあることを示していると考えられています。
この異変の正体を理解できるかどうかが、今後のサンゴ礁の姿を大きく左右する可能性があるでしょう。
(サカナト編集部)