チョウザメという魚の名前を聞いたことがありますか? 名前に「サメ」とついていますが、実はサメの仲間ではありません。
そんなチョウザメの特徴を紹介します。
チョウザメはサメではない?
名前に「サメ」とつくチョウザメ。姿かたちもよく似ているサメとは、一体どこが違うのでしょうか?
軟骨魚類であるサメとは別の分類に属する
サメは全身の骨格が軟骨でできている軟骨魚類と呼ばれるグループに属していますが、チョウザメは一般的な魚と同じく、骨格が硬い骨でできている硬骨魚類であり、分類上の系統は大きく異なります。その形状がサメに似ていること、体表にある鱗の形がチョウの形に似ていることから「チョウザメ」と名づけられました。淡水域にのみすんでいる種と、海にすみ、河川に遡上して産卵する種にわかれています。
細長く大きな体と下についた口など、姿かたちはサメと似ていますが、その見た目とは裏腹に、穏やかな性格です。サメと違いチョウザメには歯がなく、川底のえさやプランクトン、小魚などを食べています。口付近に生えている4本のヒゲは、川底の餌を探すときに使われます。
チョウザメはいわゆる「生きた化石」
チョウザメは3億年前から存在する古代魚であり、シーラカンスなどと同様に「生きた化石」とも呼ばれます。チョウザメは、現在生きている魚類の中で多数を占める真骨魚類の仲間です。真骨魚類は鱗が薄く、浮き袋が発達している魚のことを指しています。
チョウザメは、このグループの中の軟質亜綱(なんしつあこう)というグループに属しています。このグループは、原始的な魚の仲間で、古生代デボン紀(4億1,600万年前から3億5,920万年前)に出現しました。軟質亜綱に属する生物のなかで現在生き残っているのは、チョウザメの仲間のみと言われています。
「黒い宝石」はチョウザメの卵
世界三大珍味のひとつであり、「黒い宝石」とも呼ばれるキャビアは、チョウザメの卵を塩漬けにしたものを指します。ロシアやイランなどに面する世界最大の湖、カスピ海や黒海にすむオオチョウザメからとられるキャビアは、他の種と比べて抱卵まで時間がかかること、個体数が少ないことから高値で取引されます。
今ではさまざまな国でチョウザメの養殖が可能になりました。日本でも、1983年に旧ソ連から200匹のチョウザメを引き受けた宮崎県をはじめ、全国でチョウザメ養殖がおこなわれています。
チョウザメは卵だけでなく、身も美味しく食べることができます。刺身や寿司、フライなど、さまざまな料理に向いています。その美味しさを広めるため、チョウザメブランドを立ち上げた養殖場もあるほどです。
キャビアのための乱獲、流域管理の失敗により絶滅危惧種に
2022年7月に更新された「レッドリスト」では、合計27種のチョウザメ類の3分の2が絶滅の危機に瀕していることが明らかになりました(2022年7月「レッドリスト」更新 チョウザメの危機が深刻に-MMFジャパン)。ヨーロッパに生息していた8種のうち、7種が「CR:近絶滅種」、すなわち絶滅寸前とされています。
危機の原因は「キャビア」のための乱獲と、流域管理の失敗が挙げられています。ダム開発や工業地帯の増加により、各地域の水量が減少し、流域が分断されてしまったことで、稚魚が海に戻れなかったり、遡上して産卵ができなかったりといった問題が生まれたのです。
先述のとおり、チョウザメの野生の個体数は減少しており、現在市場で流通しているキャビアはほとんどが養殖のものです。これからの世代に、チョウザメを用いた食文化や生態を受け継いでいくためには、流域の確保や捕獲数の制限といったさまざまな保全策を考えていく必要があります。
(サカナト編集部)