コロダイはイサキ科の魚で、全長60センチに達する大型種です。このコロダイは成魚と幼魚では色彩が大きく異なり、ダイバーにはお馴染みの魚です。
また食用となったり、釣りの対象魚にもなるなど、人間とのかかわりが深い魚といえます。今回はこのコロダイについてご紹介します。
コロダイは大型の海水魚 日本近海にもみられる
コロダイPlectorhinchus pictus(Thunberg, 1792)はスズキ目イサキ科コショウダイ属の海水魚です。
日本においてはおもに太平洋岸や新潟県・兵庫県・九州北岸などの日本海、瀬戸内海、東シナ海、琉球列島、小笠原諸島などに生息している大型の魚で、大きいものは全長60センチに達します。
コロダイの名前の由来は「うり坊」から?
コロダイの標準和名は、和歌山地方でイノシシの幼獣(うり坊)を「ころ」と呼んでいる事に由来するとされています。成魚を見ると、うり坊といわれてもぴんとこないかもしれませんが、コロダイの幼魚は体側に縦帯があり、これをうり坊の縞模様に見立てたものということのようです。
また、和歌山や三重では「かいぐれ」とも呼ばれ、これは「かい」は特別に身なりを飾ること、「ぐれ」は黒という意味ですが、転じてメジナの地方名でもあります。つまり特別に着飾ったメジナのような魚という意味になるようです。これは体側の斑点が目立つ、成魚の色彩に由来しているのではないかと筆者は思います。
さらには、沖縄では「くれーみーばい」「じゅぐぁーくーれー」「しらまくーれー」などと呼ばれています。
英語名は”Painted sweetlips”
英語名では”Painted sweetlips”などと呼ばれています。「Painted」は「塗られた」とか、そのような意味で、「かいぐれ」と同様に体側の斑紋に由来するのではないかと思います。
Sweetlipsは直訳すると「甘い唇」という意味ですが、「コショウダイ類」という意味もあります。コショウダイ属のほかの種では”hotlips”(熱い唇)とか”rubberlip”(ゴムの唇)、”thicklip”(分厚い唇)などの名前がついている種もいます。
いずれもコショウダイ属の魚の口唇が分厚いところに由来します。一方日本でも長崎などで、コショウダイを「ぶたのくち」と呼ぶところがあるようですが、これも口唇が分厚いという特徴に因みます。
コロダイの分類と学名
コロダイは背鰭棘条数9~10とがほかのコショウダイ属の魚と比べると少ないこと、側線有孔鱗数が69~72と多いことにより、Diagramma(コロダイ属)とされたりしました。
しかし昨今よく用いられている分子分類においてはコロダイはコショウダイ属の中に含められたりしています。筆者も「なぜコロダイだけほかのコショウダイ類と属が違うのか」と思っていたので、同じ属に含められると納得です。
またP.pictusという種にはいくつかの亜種がいるとされます。
Plectorhinchus pictus pictus、P. pictus labiosus、P. pictus punctatus、P. pictus centurio、そしてP. pictus cinerascensの5つの亜種が認められたり、あるいはFishbaseやKuiter(1993)のようにこれらの魚を亜種から種に昇格させたりしています。
なお日本においてはP.pictusのうちPlectorhinchus pictus pictusが分布するとされ、これがコロダイの学名となります。
このほか、旧コロダイ属の種としてはもう一種ヒレグロコロダイというものもいますが、これは琉球列島でもなかなかお目にかかれない、珍しい種です。
よく似た見た目のオシャレコショウダイ
コロダイによく似た見た目をしたものにオシャレコショウダイPlectorhinchus flavomaculatus (Ehrenberg, 1830)という魚がいます。この種は体側に斑点が多数並び、見た目がコロダイに似ているのでしばしば誤同定がされることがあります。
日本では伊豆~小笠原諸島、紀伊半島、徳島県、愛媛県宇和海、高知県、鹿児島県、屋久島、琉球列島、南大東島から採集されていますが、あまり多くなく、比較的珍しい魚といえます。
この個体は鹿児島県近海の産で、突き漁で漁獲されたもの。そのため体側中央部に突いた跡があります。
コロダイとオシャレコショウダイを見分けるのであれば、背鰭棘条数を見るのがよいでしょう。
コロダイの背鰭棘条数は先述したように9または10棘と少ないのに対し、オシャレコショウダイでは12または13棘と多いので、コロダイと見分けることができます。
棘条と軟条の違いは、棘条は節がなく硬く文字どおりに棘のようになり、軟条は節がありやわらかい、という点で見分けます。
水中写真で見るとコロダイとオシャレコショウダイは大分体形も異なっていることがわかります。コロダイのほうが頭部が角ばり、オシャレコショウダイはコロダイよりもいくぶん丸いような印象を受けます。
コロダイの幼魚
コロダイはダイバーによく知られた魚です。コロダイの幼魚は成魚とは異なり、くねくねと泳ぎ、黄色と黒の縦帯が特徴です。
成長するにつれて模様が変化し、体側には黄色い斑点が現れ、目立つ黒色の縦帯もやがて薄くなり最後は消失してしまいます。
幼魚は伊豆半島にも出現しますが、大型魚も現れるため越冬しているものと思われます。
コロダイの幼魚と同じように体が細く、くねくね泳ぎをする幼魚は、コショウダイ属の多くの種で見られます。
体側に縦縞をもつムスジコショウダイ、ヒレグロコショウダイ、アヤコショウダイといった種や、幼魚はパンダみたいな模様をもつアジアコショウダイも幼魚は同様な泳ぎ方をしているようです。
チョウチョウコショウダイの幼魚は体高こそ高いですが、泳ぎ方はこれらの種に似ています。
一方でコショウダイやクロコショウダイ、東アフリカにすむバードラバーリップPlectorhinchus macrolepis、西アフリカの大西洋沿岸に生息するビッグリップグラントPlectorhinchus plagiodesmusといった種の幼魚は枯れ葉に擬態するタイプで、枯れ葉が漂うように泳いでいるようです。
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