石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員らの研究グループは、長年「不明種」とされてきた小笠原諸島のカタビロアメンボについて詳細に検討し、未記載種であることを明らかにしました。
この研究成果は「Journal of the International Heteropterists’ Society」に掲載されています(論文タイトル:New species and new distributional records of the genus Microvelia Westwood (Hemiptera: Heteroptera: Veliidae) from the Japanese Ogasawara Islands, with an illustrated key to Ogasawaran species)。
小笠原諸島の昆虫
研究の舞台である小笠原諸島は、これまで陸と繋がったことがない海洋島です。
ここでは独自の生態系が形成されており、多種多様な動植物たちが生息。小笠原諸島にしか生息しな固有種も少なくありません。
父島(提供:PhotoAC)昆虫においても固有種は多く知られており、オガサワラハンミョウやオガサワラシジミなどが例として挙げられます。
近年は外来種の移入などにより固有種の個体数減少が深刻な問題となっています。
不明種が未記載種と判明
カタビロアメンボ科は、水面で暮らす非常に小さな水生カメムシです。
小笠原諸島におけるカタビロアメンボ科はこれまで4種が知れていたものの、このうちの1種は1978年の発見以降、半世紀にわたり不明種とされてきました。
イルカに因み命名
そうした中、研究チームは調査や父島の観察会で得られた標本に加え、過去の報告に用いられた証拠標本を精査。不明種がケシカタビロアメンボ属のPacificovelia亜属に属する未記載種であることを明らかにしました。
父島から見た兄島(提供:PhotoAC)本種は海洋島に生息することに加え、雄の交尾器側片がイルカを彷彿とさせる形状であることから、イルカケシカタビロアメンボ Microvelia (Pacificovelia) amphitrite と命名されてます。
種小名の“amphitrite”は、ギリシャ神話でイルカに乗り海を渡った女神「アムピトリーテー(amphitrite)」に因んでいるようです。
現在、イルカケシカタビロアメンボは父島、兄島、弟島、西島、母島、姪島に生息する小笠原諸島の固有種と考えられています。
外来種も餌として利用
研究では、イルカケシカタビロアメンボの新種記載だけではなく、小笠原諸島のケシカタビロアメンボ相の再検討も行われました。
その結果、ケシカタビロアメンボとして記録されてきた標本は、イルカケシカタビロアメンボまたはオガサワラケシカタビロアメンボであることが示されています。
オガサワラケシカタビロアメンボについては、新たに9つの島から記録され、本種が小笠原諸島に広く分布していることが判明したのです。
また、イルカケシカタビロアメンボとオガサワラケシカタビロアメンボはいずれも、様々な節足動物を餌として利用。餌として利用されている生物の半数以上は、小笠原諸島へ侵入した外来種であることもわかっています。
固有種が多く暮らす小笠原諸島
今回の研究により半世紀以上も不明種とされてきたカタビロアメンボが小笠原諸島に固有の未記載種であることが判明し、イルカケシカタビロアメンボと命名されました。
本研究は小笠原諸島に多様な固有種が生息し、豊かな生態系を有していることを示しています。
(サカナト編集)