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淡水の生態系を裏で支える立役者<ドブガイ>の生態 タナゴの繁殖を支える「命のゆりかご」?

ある日、12歳の息子と訪れたアクアショップで、水槽の隅でじっと動かない、石か岩かも判別がつかないような茶色の塊に出会いました。店員さんに尋ねると、それは「ドブガイ」という名の二枚貝でした。

およそ「観賞用」という言葉からは程遠い、あまりに無骨で地味なその佇まい。しかし、息子はうっとりと見入っているのです。

彼の熱意に負けて、我が家にお迎えすることになったドブガイ。はじめは地味だな……と思っていましたが、共に暮らしてみることで、その魅力がわかってきました。

実はドブガイは、ただ泥の中に沈んでいるだけの貝ではありません。淡水の生態系を支える大きな役割を担っているのです。

淡水に身をひそめるドブガイの魅力

ドブガイはイシガイ科に属する二枚貝です。

殻の長さは13cmほどに成長し、日本各地の池、沼、あるいは川の砂地や泥地に身を潜めて生息。主に水中を漂うプランクトンを摂取します。

我が家では、冷凍のブラインシュリンプをあげています。

動かないように見えますが、根気強く観察していると、時折貝の口をわずかに開いてリズムをとるように左右に動く姿がみられます。まるで「ドヤ顔」で笑っているようにも見えてくる不思議な魅力があります。

ドブガイと淡水魚の共生関係

ドブガイの驚くべき特徴は、タナゴ類との間に見られる「共生」の関係です。

ヤリタナゴ(提供:PhotoAC)

タナゴ側はドブガイを「産卵場所」として利用。タナゴのメスは繁殖期になると長い産卵管を伸ばし、ドブガイの出水管(水が出ていく管)から、貝のエラの中へと卵を産み込みます。

一方で、オスは貝の入水管(水を吸い込む管)付近で放精し、精子は水流に乗って貝の内部へと運ばれ、ドブガイのエラの中で受精が行われます。

卵は貝の硬い殻に守られ、常に新鮮な水が供給されるエラの中で安全に成長します。約1週間で目が形成され、全長約7mmほどに成長すると、タナゴの稚魚は出水管から外の世界へと泳ぎ出していくのです。

ドブガイの幼生は淡水魚に「寄生」

しかし、ドブガイもただ場所を貸しているだけではありません。ドブガイの幼生もまた、ヨシノボリ等の淡水魚に「寄生」することで生き残りを図ります。

ヨシノボリの仲間(提供:PhotoAC)

ドブガイは粘液に包まれた大量の幼生を放出。この粘液がそばを通りかかった魚の体にまとわりつき、幼生は魚のヒレや体表に付着します。

幼生はしばらくの間、魚の体から養分を吸い取って成長し、やがて十分な大きさを得ると魚から離れて砂底での生活を始めます。

自然界のバランスは、このようにして保たれているのです。

ドブガイが持つ浄化作用 水質の変化に敏感

ドブガイは「天然のフィルター」としての役割も果たしています。

彼らは水を吸い込み、エラを通してプランクトンなどの栄養分をろ過して摂取します。このろ過摂食のプロセス自体が水を綺麗にする仕組みとなっており、実際にドブガイのいる水槽は水が澄んで見えるほど強力な浄化作用を持っています。

ドブガイ(撮影:栗秋美穂)

しかし彼らは、水質の変化には非常に敏感。水質汚染が進んだ河川で生きていくことはできません。

そしてタナゴ類は、卵を産み付ける対象である二枚貝がいない環境では繁殖することができず、数を減らしてしまうのです。

この通り、河川改修や環境汚染によってドブガイなどの二枚貝が減少することは、そのままタナゴ類の生息数減少に直結するという深刻な問題を抱えています。

この問題は、実際に日本各地で問題になっています。

ドブガイが伝えてくれること

川辺やアクアリウムショップで石ころのような茶色の貝を見かけたら、ぜひその静かな佇まいに思いを馳せてみてください。

彼らは水中の世界を懸命に回している立役者。泥の中にじっと沈むその姿は、私たちが忘れかけている「命のつながりの大切さ」を、静かに語りかけてくれているようです。

(サカナトライター:栗秋美穂)

参考文献

イシガイ類-農林水産省

タナゴと貝の特別な関係-熊本市動植物園

ドブガイに托卵されたタナゴの卵-NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会

ゼニタナゴ、ドブガイ、トウヨシノボリの微妙な関係-秋田市公式

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栗秋美穂

栗秋美穂

多様な学びと生き方を発信するライター

ウミガメの保護活動や、鮭の稚魚を育てて放流する活動をしています。読者の皆様にも、このような経験を通じて、少しでも海の生き物が生きやすい国になればと思います。

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