イルカは、海底にある貝殻を「道具」として使うことが知られています。
この行動は“シェリング”と呼ばれ、魚の入った大型の貝殻をくわえて水面まで運び、貝殻を傾けて魚を取り出します。これまで、この行動が学術的に報告されていたのは、西オーストラリア州のシャーク湾だけでした。
ところが2025年、オーストラリア・クイーンズランド州のグレート・サンディ海洋公園でも、シェリングを行うイルカを初めて確認。さらに、母親が貝殻を扱った直後、子イルカも同じように貝殻を扱う様子が観察されています。
サンシャインコースト大学のアレクシス・レベングッド博士らの研究チームは、この観察結果を、シェリングが母親から子へと伝わる可能性を示すものとして報告しました。
この論文は、学術誌「Marine Mammal Science」に掲載されました(論文タイトル:Observations of Shelling Behavior and Potential Evidence of Vertical Social Learning by Bottlenose Dolphins in the Great Sandy Marine Park, Queensland Australia)
貝殻に魚を追い込み捕食
サンシャインコースト大学のアレクシス・レベングッド博士らの研究チームは、2025年7月から10月にかけて、オーストラリア・クイーンズランド州のグレート・サンディ海洋公園で成獣の雌イルカ2頭による行動を観察しました。
シェリングでは、イルカが魚を大きな空の貝殻の中へ追い込みます。その後、貝殻を水面まで持ち上げて傾け、中に残った魚を口へ流し込んで捕食します。
チームは船上からの観察に加え、カメラやドローンでこの様子を記録しました。
イルカが貝を水面上に持ち上げる様子(出展:Levengood et al. (2026), Marine Mammal Science, Fig.4, CC BY 4.0)こうした行動は、西オーストラリア州シャーク湾で報告されていましたが、クイーンズランド州での確認は初めて。また、地元のツアー事業者が保管していた写真などから、2013年と2019年にも同様の行動が見られていたことが分かりました。
子イルカが母親の後に貝殻を操作
2025年10月には、母イルカが貝殻を落とした数分後、子イルカがその貝殻を拾い上げる様子を観察。子イルカは母親と同じように水面で貝殻を保持しており、貝殻からはトカゲゴチ類とみられる魚が垂れ下がっていたといいます。
2025年10月1日に観察された貝殻利用行動(出展:Levengood et al. (2026), Marine Mammal Science, Fig.3CC BY 4.0)この記録は、子イルカが母親を観察してシェリングを学ぶ「母系の社会的伝達」を示す、初期的な証拠となる可能性があるそうです。
イルカの子どもは長期間にわたり母親に依存するため、採餌技術を学ぶ時間も十分に確保されると考えられています。
離れた地域で見られる独自の技術
オーストラリアの東西で6,000キロメートル以上も離れたイルカの群れが、似た方法で貝殻を利用している点も注目されます。両地域の行動が独立して生まれたのか、どのように群れへ広がったのかは、今後の研究課題です。
イルカは海綿をくちばしにかぶせて海底の獲物を探す行動でも知られています。今回の観察は、イルカが環境にある物を採餌に活用し、その技術を個体間で学習している可能性を改めて示しました。
(サカナト編集部)