みなさんはこんな経験はないだろうか。
ハマグリのお吸い物を飲もうとして、ふと開いた貝の殻の中に白い小さなカニがいた、ということ。このカニはいったい何だろう、もしかしてこのハマグリがカニを食べてしまったのだろうか? などと考えてしまったこと。
今回は貝の中から出てくるあのカニの正体について紹介していこうと思う。
“あのカニ”の名前は「ピンノ」
結論から申し上げると、「あのカニ」はピンノというカニである。ピンノという聞きなれない名前は、ピンナという貝(タイラガイ)から見つかり、ピンナの中にいるカニ、という意味のピンノテレスという名がつけられたことに由来する。
ハマグリから出てきた場合、一番可能性が高いのがオオシロピンノという種類である。ただし、九州にお住みの方ならマルピンノという種類かもしれない。
オオシロピンノは甲羅の幅が1.5センチと非常に小さく、日本全国に分布している。ハマグリのほかにも、アサリ、カキ、ムラサキイガイ、ハマグリなどの様々な貝の中に確認されている。
これだけの多くの貝の中から見つかるのは大変珍しく、特に海外からの移入種であるムラサキイガイからは移入直後に見つかっていることから、オオシロピンノの貝への適応力がうかがい知れる。
ピンノは貝の中で何をしているのか
ところで、ピンノは貝の中に入ってどのような生活を送っているのだろうか?
実はピンノは貝の体の内部に入り込み、貝の餌を奪って生活しているのである。貝は水中にある養分を吸い取って生活するが、ピンノはその傍らでそれを横取りしているというわけである。なかなか図々しい生き方である。
古代エジプトでは、ピンノは貝から養分をもらう代わりに敵が来た時などの非常事態を知らせるカニである、と言われていたが、近年の研究では貝の役に立つようなことは特に行っていないばかりか、栄養の吸収を阻害しているということが分かっている。このような関わり合いを「寄生」と呼ぶ。
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