チョウチョウウオ科の魚はカラフルな色彩のものが多く、主に南西諸島で多く見られる種です。
その中でも背鰭第4棘が長く伸びるハタタテダイ属魚類はサンゴ礁の魚の代名詞的な存在。そんなハタタテダイ属魚類は日本から6種が知られており、琉球列島ではすべての種が見られますが、なかには九州以北、さらには北海道で採集された種も知られています。
今回は日本産のハタタテダイ属全6種をご紹介し、この6種のなかでもとくによく似た2種、ハタタテダイとムレハタタテダイの見分け方もご紹介します。
ハタタテダイ属の魚
ハタタテダイ属はスズキ目・チョウチョウウオ科の属で、インドー中央太平洋の温帯・熱帯・亜熱帯海域から8種が知られています。
その大きな特徴は背鰭第4棘がほかの背鰭棘条よりも長く伸びていること。この特徴により、ほかのチョウチョウウオ科魚類と見分けるのは難しくないといえます。
サンゴ礁や岩礁に生息し、おもに単独~数匹で見られますが、なかには大きな群れを作るものもいます。食性もさまざまで、動物プランクトンを食べる種や甲殻類などの底生動物を食するもののほか、サンゴのポリプをつついて食べるものもいます。
ハタタテダイ Heniochus acuminatus (Linnaeus, 1758)
ハタタテダイは日本の最も広範囲に見られるハタタテダイ属魚類で、同時に日本において最も広範囲に見られるチョウチョウウオ科魚類といえそうです。
タイプ産地は「Indiis」とされています。インド~太平洋域に広く分布しており(ただしハワイ諸島のように分布しないところがある)、日本においても青森県以南に分布するとされてきましたが、2023年には北海道からも記録されました(著者注:北海道の記録は筆者の勘違いでした)。もちろん分布の中心はサンゴ礁域であり、北海道や東北では越冬できず死んでしまいます(死滅回遊魚)。
四国南岸や九州、琉球列島では普通種であり、写真の個体は沖縄島の港から釣れたもの。全長20センチになりこの属では比較的大きくなる種。
主に数匹以下の群れで生息するか、単独で見られるもので、後述のムレハタタテダイと見分けられる他にも、色彩的、形態的に小さな違いがあります。
磯からの釣りではよく見られるもので、食用になり味は意外にも美味、観賞魚としても飼育され、チョウチョウウオ属のものよりは餌付けも容易です。
ムレハタタテダイ Heniochus diphereutes Jordan,1903
ムレハタタテダイは名前の通り、大きな群れを作るハタタテダイ属の魚です。
日本の長崎で漁獲された個体をもとに、1903年、D.S.ジョーダンによって新種記載された本種ですが、長らくハタタテダイと同種とされ忘れ去られていた種でした。
日本では千葉県以南の太平洋岸や山口県豊浦、長崎県(基産地)に分布します。
海外における分布はインド~太平洋ですが局地的。ただし紅海やハワイ諸島にも生息しています。紅海にはほかにもハタタテダイ属魚類は生息していますが、ハワイ諸島においてはこのムレハタタテダイが唯一のハタタテダイ属魚類です。
ただし、古い文献では Heniochus acuminatus または Heniochus macrolepidotus がハワイに分布しているとされ注意が必要 (前者は誤同定。また後者は今日では前者のシノニムとされ消えている)。食用になり、市場ではハタタテダイと区別されていません。大きさもハタタテダイと同じくらいで全長20センチ程です。