国の研究機関である水産研究・教育機構は、北西太平洋における2024年8~12月のサンマ来遊量や魚体についての見通しを発表しました。
今年もサンマの来遊量は少なくなる予報。今後秋の味覚が帰ってくることはあるのでしょうか。
サンマの来遊量は低水準に
水産研究・教育機構は、北海道東側から千葉県沖までの北西太平洋において、サンマ漁が本格的に行われる8~12月のサンマ来遊量や魚体について、活発になる漁場や漁期の見通しを発表しました。
漁獲対象地域での推定分布量は昨年と同様の低水準と発表されており、今年も不漁が予測されています。
また魚体について、漁獲対象地域で採集された個体のうち、1歳魚の平均体重は昨年を下回ったとのこと。昨年は100~120グラムほどだった体重が、今年の漁期前半は90グラム~110グラムほど、漁期後半には80グラム~100グラムほどになる推定です。
2019年以降、サンマの漁場への来遊が遅れるケースが見られるようになり、その原因として1歳魚の体重の減少が指摘されているそう。過去の1歳魚の体重と回遊の遅れの事例から、今年は1歳魚の体重が軽いために例年より30日程度回遊開始が遅れると推定されました。
近年のサンマ漁業は? 不漁の理由には他国の漁獲増加も
水産研究・教育機構のリリースでは、近年のサンマ漁業と資源の状況についても解説されています。
日本のサンマ漁獲量の95%は棒受網によって漁獲されています。棒受網漁業は1950年代に急速に発展し、漁獲量が急増しました。1980年代後半以降は20~30万トンの範囲で比較的安定して推移しており、秋の味覚として親しまれてきました。
しかし、2010年以降漁獲量は減少傾向に。2022年には1.8万トンと、棒受網漁業が普及した1960年代以降ではもっとも低い値となりました。昨年2023年には少し回復しましたが、それでも2.6万トンと最盛期ほどの回復は望めません。
推定分布量に関しても、調査開始時の2003年には467万トンほどありましたが、2021年には45トンと過去最低になりました。2024年でも92.2万トンと、低水準が続いている状況です。
不漁の理由のひとつに、他国の漁獲増加が挙げられます。2000年代以降、ロシアや、台湾、中国、オセアニアにあるバヌアツが本格的にサンマ漁業に参入しました。2010年以前は日本のサンマ漁獲割合は8割を占めていましたが、各国の本格参入以降はその割合が減少。2023年には21.6%となっています。
また、海洋環境の変化も大きな要因です。サンマの太平洋群は、冬から春にかけて南の海域で産卵し、太平洋を北上。晩春から秋にかけて、北海道東沖公海上から道東、三陸から紀伊半島あたりまで南下します。
親潮に沿って南下してきたサンマは日本沿岸に沿って分布していましたが、近年は温度が高い水が渦になる暖水塊がその経路を阻み南下ができず、それを避けるように沖合に分布するようになりました。はっきりとした理由はわかっていませんが、温暖化が影響しているとみられています。
このように、漁場も徐々に沖合へと移っており、サンマ漁業の状況は随分変わったといえます。
サンマから学ぶ海洋環境
この記事ではサンマを取り上げましたが、近年はさまざまな魚で漁獲量が減少したり増加したりしており、海洋環境の変化が伺えます。
漁獲量の変動の裏で何が起こっているのかを学ぶことで、魚を取り巻く環境を知ることができます。大きな環境の変化にもさまざまな要因があること、私たちも環境の一部だということを自覚していかなければなりませんね。
(サカナト編集部)
参考文献
2024年度 サンマ長期漁海況予報-国立研究開発法人 水産研究・教育機構
<地球異変 すぐそばの温暖化>サンマ「冬の味覚」 暖水塊が魚群南下を妨げ-東京新聞
藤原昌高(2022)、ぼうずコンニャクの日本の高級魚辞典、三賢社