近年、日本近海における水温上昇は生物相に変化をもたらし、北日本では北限記録となる魚が報告されることも少なくありません。
日本列島の北部に位置する宮城県でも近年、南方系の魚が出現しており、ミナミキントキやリュウキュウヨロイアジ、フウライチョウチョウウオなどが新たに記録されています(異常高水温下の2023年10月から2024年2月に宮城県牡鹿半島周辺海域から得られた北限更新記録を含む29種の南方系魚類の記録)。
漁業においては、タチウオの漁獲量が著しく増加しているようです。
太刀のようだからタチウオ
タチウオはスズキ目サバ亜目タチウオ科に属する海水魚で、サバやマグロに近いとされています。
本科の魚は体表に鱗を持たず、代わりにグアニンと呼ばれる物質で被われ、銀色を呈します。銀色の体と著しく長い体型がまるで太刀のように見えることがタチウオ(太刀魚)の由来と考えられているようです。
本科の魚はいずれも暖かい海に生息しますが、タチウオ種は北海道以南に分布することから各地で漁獲があり食用にもなります。とはいえ、主な産地は暖かい海域であり北日本では馴染みの薄い魚でした。
そんなタチウオですが、現在、宮城県で水揚げ量が増加しているといいます。
宮城県で急増するタチウオ
太平洋側に面した宮城県は日本でも屈指の好漁場として知られ、ヒラメやタラなど様々な海産物が水揚げされています。
そんな中、宮城県におけるタチウオの水揚げ量が増加しており、10年ほど前は県内で約1トンだった水揚げ量は2018年には100トンを超え、2021年には506トンと10年ほど前の約500倍となりました。
漁獲されるサイズは小型~大型まで様々なであり、宮城県沿岸で再生産していると考えられています(新・みやぎ・シー・メール第 35 号(Miyagi Sea Mail)-宮城県)。
ヒラメ漁からタチウオ漁へ
宮城県でタチウオの水揚げ量の増加を受け、地元の漁業にも変化があるようです。
石巻市の漁師の中には、ヒラメの漁獲量が減少していることを受け、タチウオ漁へと切り替える人もいます。現地では「曳(ひき)縄」によるタチウオ漁が採用されており、これは定置網で漁獲されるタチウオと比較して非常に状態が良いことが特徴なのだといいます。
さらに、漁獲したタチウオは脳締めと呼ばれる特別な処置を施すことにより、非常に鮮度の良いタチウオの水揚げを実現。通常のタチウオは1キロあたり2000~3000円の価格なのに対し、阿部さんが手がけた高品質なタチウオは1キロ6000円もの価格が付けられるそうです。
宮城県で増加しているタチウオは、地元のスーパーなどでも見かけるようになっているといいます。今後、宮城県がタチウオの一大産地になるかもしれませんね。
(サカナト編集部)