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在来種によく似た外来種<シナヌマエビ>の脅威 商品名<ミナミヌマエビ>でも本当は違う?

現在の日本には多くの外来生物が生息しており、中には在来種との区別が難しい生物も少なくありません。

ミナミヌマエビはアクアリストであれば知らない人はいないポピュラーな小型エビで、ペットショップではもちろんのこと、インターネットでも比較的容易に入手することが可能です。

しかし、ミナミヌマエビという商品名で流通している小型エビであっても、それが<真のミナミヌマエビ>とは限らないのです。

在来種のミナミヌマエビ

ミナミヌマエビ(Neocaridina denticulata)はヌマエビ科カワリヌマエビ属に分類される小型種で、大きさは3センチ程。オスがメスよりも小さいという特徴があります。

本種は河川や湖沼に生息する陸封型のエビで、西日本に広く分布。かつて、九州地方ではメバルやメジナの釣り餌として用いられていたそうです。

ヌマエビ科のエビ(提供:PhotoAC)

ミナミヌマエビが釣り餌に利用されていたことからも、かつては比較的よく見られた種であることが推測できますが、高度経済成長期(1965~1975年頃)の農薬散布などで個体数が減少しています。

特に滋賀県では危機的な状況であるとされ、ネルソン・アナンデールらによる1915年の調査を最後に記録がなく、滋賀県のミナミヌマエビは絶滅したものと考えらえれていたようです。

一方で、2000年以降、ミナミヌマエビによく似たエビが琵琶湖周辺で採集されるようになりました。このエビは近縁の外来種シナヌマエビではないかと疑われていたものの、その実態は明らかになっていませんでした。

100年ぶりに滋賀県のミナミヌマエビが発見される

約1世紀もの間、滋賀県から発見されていなかったミナミヌマエビですが、近年、琵琶湖の流入出河川から発見されることになります。

2022年に京都大学が公表した論文では、琵琶湖とその流入出河川18地点と京都府の1地点から得られたカワリヌマエビ類(オスの成体)111個体を調査。琵琶湖の流入出河川と京都府の1地点からミナミヌマエビを発見し、琵琶湖流入出河川からミナミヌマエビが約100年ぶりに再発見されたのです。

さらに、この研究では滋賀県内にシナヌマエビも多く生息することが判明したほか、ミナミヌマエビとの交雑を示唆する結果が得られています。

生きたまま輸入されるシナヌマエビ

シナヌマエビ(Neocaridina davidi)は中国などを原産とする小型のエビです。

日本には少なくとも3系統が侵入していることが明らかになっているものの、分類が困難であることから「シナヌマエビ種群」とも呼ばれています。

日本では釣り餌(通称「ブツエビ」)として、1969年以降に本種を含むカワリヌマエビ属のエビが韓国から輸入され始め、2001年に韓国でシナヌマエビの野外採集が禁止されてからはそれを補うように中国からの輸入が始まりました。

ヌマエビ科のエビ(提供:PhotoAC)

日本へ輸入されたシナヌマエビは釣り餌としてだけではなく、観賞用としても広く流通し、アクアリウム業界では日本在来種と同じ名前である「ミナミヌマエビ」の商品名で流通することがほとんどです。

シナヌマエビは在来エビと競合する

日本在来種であるミナミヌマエビに酷似したシナヌマエビですが、現在は日本の広域から発見されており、侵略性が強いことから、ヌカエビやミナミヌマエビなど在来種への負の影響が知られています。

実際、鶴見川水系に侵入したシナヌマエビが短期間でヌカエビを駆逐したほか、埼玉県でも多く地点でヌカエビが駆逐されているようです。

また、兵庫県夢前川水系では、30年前の調査で河川全域にミナミヌマエビが生息していたことが明らかになっていますが、先日公表された論文「River dam prevents the invasion of non-native species of Neocaridina Kubo, 1938 (Decapoda: Caridea: Atyidae) into native habitats: A case study in the Yumesaki River system, Japan」では同水系におけるミナミヌマエビの生息はダムの上流側であるとされ、ダムよりも下流はすべての地点でシナヌマエビに置き換わっていることが明らかになっています。

シナヌマエビとミナミヌマエビの区別は難しい

国内の各地から発見されているシナヌマエビですが、在来種であるミナミヌマエビと酷似しており、研究者によってシナヌマエビをミナミヌマエビの亜種として扱う場合もあるようです。

また、両種の形態的な差異は僅かであることに加え、在来種との交雑が生じることから外見からの区別は極めて困難であり、正確な同定にはDNAバーコーディングなどによる遺伝子解析が必要だといいます。

生息域を保全する必要がある

このようにシナヌマエビとミナミヌマエビの識別は困難であることが、ミナミヌマエビの保全やシナヌマエビなどの外来カワリヌマエビ属の管理の難しさの要因の一つだと考えられています。

在来種であるミナミヌマエビ保全のためにも多くの人たちが、ミナミヌマエビと呼ばれているエビの中に外来種がいることを知る必要があるのかもしれません。

(サカナト編集部)

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サカナト編集部

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