水族館に行くと、水槽で魚たちが自由に泳いでいる姿を見ることができます。
何気なく見ている水族館のガラスですが、どのようにして、大量の水や魚たちの重量を支えているのでしょうか。
水族館のガラスの秘密について、紐解いてみましょう。
水族館のガラスの分厚さは?
水族館での展示に欠かせないガラスですが、使われているのは鉱物由来のガラスではなく、アクリル性樹脂で作られたアクリルガラスです。
数百トンにもなる重さの水の量を支えるためには、1枚のアクリルガラスだけでは足りません。分厚い水族館の水槽は、何枚ものアクリルガラスを幾重にも重ねて作られています。

例えば、下田海中水族館(静岡県下田市)の大水槽のガラスは水深6メートル、総水量600トンの水を支えるために厚さ15.5センチにもなるガラスが使われています。
水槽の規模にもよりますが、大水槽に使われているガラスの厚みは15~30センチになります。
水族館のガラスを横からよく見てみると、継ぎ目や水槽の終わり際にあるガラスが見えます。手を広げたときの長さよりも分厚いガラスが、歪なく接合されている技術に驚かされますね。
技術の結晶で作られたアクリルガラス
かつて作られた水族館のガラスは鉱物由来の強化ガラスでした。しかし、自由な形やサイズに加工ができなかったり、耐久性を高めようとすると視認性が悪くなったり、多くの問題点がありました。
そんな中で登場したのが、アクリルガラスです。

重量があり、加工するためには700度以上の温度が必要な強化ガラスと違い、アクリルガラスは軽く、加工のための温度も120度程度です。これにより建物に負荷をかけることなく、球状やドーム型など自由な水槽の設計を可能としました。
耐久性は強化ガラスの10~15倍なので、重たい水圧にも耐えられます。万が一割れてしまった場合も、破片がガラスのように鋭くならないので安全です。
アクリルガラスは強化ガラスと比較しても透明度が変わらない
また、重ねると色が変わったり湾曲したりする強化ガラスと比べて、アクリルガラスは透明度が変わらないのも利点です。魚たちを実物と変わらない姿で見られるのも、このガラスのおかげなのです。
技術の結晶として作られたアクリルガラスは、水族館以外でも美術館や飛行機の窓、浴室のドアなどにも使用され、私たちの日常を支えてくれています。
日本一大きな水槽をもつ水族館は?
日本のあらゆる水族館で使われているアクリルガラス。中でも、最も大きくて分厚い水槽を持つのは、沖縄美ら海水族館です。
黒潮大水槽のアクリルガラスは高さ8.2メートル、幅22.5メートルで約60センチの分厚さ!

先ほどご紹介した下田海中水族館のガラスの約4倍の厚さ。2003年から2008年までの5年間、「アクリル水槽パネルの大きさ世界一」のギネスを保持していたのも納得です。
ちなみに沖縄美ら海水族館には、水槽の分厚さが体感できるアクリルブロックの展示もあります。ぜひ探してみてください。
アクリルパネルの先駆者は日本企業
巨大水槽のアクリルパネルの先駆者はNIPPURA株式会社という日本の企業。当時の屋島山上水族館(現・新屋島水族館)に世界初のアクリル製回遊水槽を作ったことをきっかけに、世界各国の水族館を手掛けることになりました。
つまり、日本のアクリルガラスの加工技術が世界中の水族館を支えているのです。
水族館に行ったら、魚や生き物だけでなく、ぜひ水槽にも注目してみてください。クリアで歪みのないアクリルガラスが映し出す水中の世界は、その技術力を知るとより楽しく観察することができますよ。
(サカナトライター:秋津)