サカナに特化した本屋・SAKANA BOOKS(サカナブックス)で2023年8月からスタートした水生生物クリエイター向けの棚貸しサービス『SAKANA APARTMENT(サカナアパートメント)』。
今回はSAKANA APARTMENTの401号室に現在入居中の株式会社Sacana・さかなさんに、水生生物や制作活動への思いを語っていただきました。
株式会社Sacana ウェブサイト 、Instagram: @sacana_inc、 X:@Sacana_Inc

SAKANA APARTMENTの様子。素敵なタウオルが並びます!サイズは大と小の2種類で、プレゼントにもおすすめ。(提供:SAKANA BOOKS)
木を削ってルアーをつくる
━━━ 今は主にどのような作品づくりや活動をされていますか︖
自分の手を動かして作っているものは釣り具です。主にルアーで、木をナイフで削って作ります。小中学生の時から、25年以上作っています。

木を削ってルアーをつくる(提供:株式会社Sacana)
━━━つくり方はどこかで学ばれたのですか。
完全に独学なんです。
途中でHMKLというメーカーの泉さんという方が、二枚の木を貼り合わせてワイヤーとおもりを仕込むというのを雑誌かどこかで紹介したことがあったんですよ。それが今のハンドメイドルアーのスタンダードなつくり方になっていて。
中学か高校の時にそれをみて、こうやってつくればいいんだ!と。そこでレベルがぐんとあがりましたね。
やはり先人の方の知恵はすごい。近道になるので。
━━━ルアーのかたちなどは釣りたい魚によっても変わるんですか?
もちろん。釣りたい魚といっても、たとえばヤマメを釣りたいというのと、マグロを釣りたいというのでは、大きさや強度が違うものを用意しなくちゃいけません。

(提供:株式会社Sacana)
ヤマメでも、本流のヤマメなのか、源流のヤマメなのか、サイズとかシチュエーションによってもぜんぜん使うルアーが違うんですよ。全部状況や魚のサイズにあわせて、魚種に合わせて本来は作るべきであって。
だからもう数百種類必要ですね。でも1個つくるのに5年くらいかかるんです。設計をするのに。なので50回くらい生まれ変わらないと、全部は制覇できないかも(笑)
━━━釣りをしない方に向けて。仕組みとしては、魚などの形をしたルアーにさまざまな種類の釣り針のフックを付け替えてつかうんですね。
はい、ルアーに付いているスプリットリングという金属でフックをつけかえられます。ルアーの形は多種多様で、フックとの組み合わせももう無限なんです。

(提供:株式会社Sacana)
━━━実際のルアー制作過程から、それを使って釣った魚を料理し、グリーンカレーにして食べるまでを動画にした株式会社SacanaさんのYouTubeを拝見しました。ルアーってこうやってつくるんだ!ということもわかりました。
あれは3年か4年前に一回だして、それから更新ストップしてたんですけれど(笑)
商品を売るのに、ちゃんと更新しなさいと言われて、最近は一ヵ月に一回くらいまた動画をあげています。
ハンドメイドルアーを作って、釣った獲物でグリーンカレー【作って獲って、料理し喰う #1】
タウオルの誕生秘話!
━━━イベント出展もされているんですか?
たまに、年に2、3回していて。
釣り関係のイベントと、新潟のアウトドアとスノーボード関係のイベントとかですね。中学の先輩のお手伝いで行っていたら、スノーボーダーと仲良くなって。

イベント出展時の様子(提供:株式会社Sacana)
━━━SAKANA BOOKSで販売している<タウオル>についても教えてください。
タウオルは、プロスノーボーダーと写真家の仲間と企画して作っています。
━━━最近作り始めたんでしょうか?
ちょうど一年前くらいです。プロスノーボーダーの仲間が生地に転写をできる高額な高性能プリンタを買ったんです。イベントで相部屋になったときに、何か一緒にできたら面白いねっていう話になって。

タウオル。右からアマゴ、ニッコウイワナ、ヤリイカ(提供:株式会社Sacana)
抱き枕をつくりたいって最初は言っていたんですけど。原価も高額になってしまいそれは絶対無理だなと思ったので、じゃあ小さいので!ということでタオルにしようと。
あとは写真はどうしよう……、あ!釣り仲間の佐藤岳彦さんがいるじゃんって。それで話したら岳彦さんもノリノリで。
写真家。1983年、宮城県生まれ。大学院(森林動物学)中退後、写真の道へ。傍らの叢から辺境の密林まで、地球を旅し生命を見つめている。写真集に『密怪生命』(講談社)、『生命の森 明治神宮』(講談社)、『変形菌』(技術評論社)がある。2018年日本写真協会賞新人賞、2019年 Horizonte Zingst International Photo Award(ドイツ)を受賞。2025年4月17日、写真集『裸足の蛇』(ulus publishing)を刊行。
公式ホームページ 、 X: @Takehiko_Sato、Instagram :@takehikosato64
佐藤岳彦 写真展 「浮遊する蛇」
期間:2025年4月17日(木)~ 4月28日(月)10:00〜18:00(最終日15:00まで)
休館日:4月22日(火)・23日(水)
料金:入場無料
会場:OM SYSTEM GALLERY(旧 オリンパスギャラリー東京)
詳細はこちら(外部サイト)
━━━タウオルは現在アマゴ、ニッコウイワナ、ヤリイカのバリエーションがあります。これらの魚種には選んだ理由があるのでしょうか。
それが特にないんですよ(笑)
タウオルにしたい写真は鱗のアップとか、その魚が何かわからないような魚の一部を切り取ったものなので。岳彦さんの撮った写真でその用途に使えるものを探したのが、たまたま上記の魚たちだったっていう。

(提供:株式会社Sacana)
オオニベとかイトウもつくろうっていって、年に5、6回一緒に釣りにいってるんです。でも二人とも狙いの魚が釣れないっていう(笑)
素材が手に入らないんですよ。毎回狙ったものが釣れるわけじゃない。それでもタウオルは僕が撮った写真じゃ意味がないから、やっぱり。
釣りに関しては、できるかぎり魚に失礼がないように。
━━━ 制作を始めたきっかけは何ですか︖
ルアーについては、魚を自分の力だけで釣りたかったからでしょうか。
人が作った道具を使って釣ると、釣った魚は自分だけの力で釣ったわけじゃない。魚とフェアに勝負をしたいから魚と自分との間には何も介入させたくない。
道具を作り、自分の能力だけで釣ることが、自分にとっての魚釣りなんです。
普通釣りって、釣具屋さんに行って道具を買って、店員さんからこういうのが釣りたかったらどこにどういう時期にいって、こういう道具を使えば釣れるよって教わって釣ることが多いです。
僕も最初はそういう風に、だれかに教えてもらいながら釣りを始めたんですが、途中から自分だけの力で釣りたいと思って。
人から昨日ここで釣れたよーって教えてもらったポイントには全くいかなくなったし、自分で考えて、ああ気温がこのくらいで風が南風だし、今日満潮が19時だし、新月だし。じゃあ、あそこだろうなって釣りに行って、魚を釣る。

(提供:株式会社Sacana)
自分で考え出した答えだけで魚が釣れるっていうことが、自分にとって一番満足度が高いんです。それで道具に関しても、買ってる道具じゃだめだって思って。自分で全部つくったら、自分と魚の一対一の勝負になるから。
釣りに関しては、魚はとって食べることもあるので、できるかぎり魚に失礼がないように。あっちが命がけだったらこっちも命かけないといけないなって思ってて(笑)
━━━魚に対するリスペクトを感じます。
とにかく命あるものに対しては、こっちもある程度ちゃんとした姿勢で向かわないといけないので。
さらに突っ込んだ話をすると、僕は本来は、自分で捕れる獲物しか食べないようにしてるんです。本来、自分の能力で捕まえられない生きものって食べられないじゃないですか。
マグロとかブリとかは自分で釣ったことがあるから食べるけど、クジラとかは自分では捕まえられないので食べない。会社の打ち上げとかで付き合いのときは仕方なく食べますけれど、自分でスーパーに行ったときとかは買わないし食べない。
っていうところで、基本的に考え方がちょっと変わってるかもしれません(笑)

(提供:株式会社Sacana)
━━━真摯に命と向き合ってらっしゃると感じました。
半自給自足的生活を続けているので。捕った獲物と、魚と、畑で野菜を育てて。
だから最近野菜が高くなってると言われても「へえっ」としか言えないんです。できるかぎり、そういう暮らしをしたいなとおもってて。だから都内からも引っ越したんです。
ドイツは釣りするのに免許が必要
━━━過去にはドイツにも行かれて、漁業免許満点合格をされたそうですね。
ドイツは釣りするのに免許が必要で。
それは車の運転免許とかと一緒です。運転免許の講習をそのまま釣りに置き換えたとおもってもらえればいいんですけれど、それだけ時間もお金もかかるんですよね。
講習場所も学校の教室とかじゃなくて、僕の場合はなぜか高級レストランで週一回、夜にみんなで集まってご飯を食べながらやりました。
美味しいビールで乾杯して、食べながらマイスターの講師の話を聞くっていう。結構ラフなんです。
━━━免許をとる過程でも、今お話しいただいたような、魚に対する姿勢が確立されたんですか。
いや、もう最初っからですね。行く前からです。
だってドイツ行ったの30歳からですもん。30歳からドイツ語を勉強したんですよ。やればできるんです、人間。
渡独してから2、3年かかったから、32、33歳くらいで免許をとりました。