新種というと、深海や極地から発見されるイメージですが、意外にも身近なところに潜んでいるものです。実際に、産地では食用にしていた生物が実は新種だったり、今まで1種とされてきた種の中に新種がいたりすることも珍しくありません。
最近の実例としてオニアマノリが挙げられます。
本種は潮間帯の岩礁で見られるPyropia属の海藻で日本各地に分布。これまでいずれの産地のものもオニアマノリと同定されていましたが、国立大学法人東京海洋大学を中心としたグループにより関東地方太平洋沿岸のものが新種であることが判明したのです。
これらは黒潮域で見られることからクロシオアマノリと命名されました。
この研究成果は日本藻類学会誌『Phycological Research』のオンライン版で公開されています。
オニアマノリとは
オニアマノリ Pyropia dentataは1897年にスウェーデンの藻類学者のシェルマンにより新種記載され、タイプ産地は熊本県天草地方となっています。

従来、日本におけるオニアマノリの分布は太平洋、日本海、東シナ海とされ、日本各地に広く分布する種と考えられてきました。
しかし、これまでに分子系統解析と形態観察を組み合わせたオニアマノリの遺伝的多様性及び種同定については、詳しい調査が行われていなかったといいます。
太平洋沿岸のオニアマノリは別種
今回、国立大学法人東京海洋大学を中心としたグループは水産研究・教育機構 水産技術研究所、千葉県立中央博物館分館 海の博物館、北里大学との共同研究により、日本各地でオニアマノリとされている海藻の調査を行いました。
太平洋、日本海、東シナ海から得られたサンプルの葉緑ゲノム上のrbcL遺伝子の塩基配列を用いて分子系統解析を実施。
その結果、太平洋沿岸のサンプルは、タイプ産地である天草を含む東シナ海及び日本海沿岸のサンプルとは別種である、つまりは太平洋沿岸でオニアマノリとされてきた海藻は未記載種であることが明らかになったのです。
また、オニアマノリの種内でも、日本海沿岸に広く分布する系統と日本海南西部沿岸の一部に分布する2系統に遺伝的分化していることが明らかになっています。
クロシオアマノリと命名
さらにこの研究では太平洋、日本海、東シナ海を代表して、江の島、長崎県平戸、天草のサンプルについて、形態観察が行われました。
その結果、オニアマノリと別種とされた太平洋沿岸のサンプルは葉状体が厚く、葉状体上に形成されるメスの生殖細胞の形態的特徴にも違いが見られたといいます。

このことから、江の島や房総半島、伊豆諸島など太平洋沿岸でオニアマノリとされてきた海藻を新種であるとし、分布域に因みクロシオアマノリ Pyropia neodentata と命名(タイプ産地は神奈川県の江の島)。
種小名の neodentata はオニアマノリの種小名である dentata とラテン語で”新しい”を意味する neo を組み合わせた名前となっています。
温暖化に対応した新たな栽培種
現在、日本で養殖されているノリのほとんどは、北方種のスサビノリの1品種であるナラワスサビノリで、遺伝的画一化も進んでいるとのことです。
そのため、温暖化に対応すべく新たなノリ栽培種が求められており、南方種であるクロシオアマノリとオニアマノリを育種素材として利用されることが期待されています。
(サカナト編集部)