『ゆびでたどる進化のえほん』(監修・文/三上智之 絵/かわさきしゅんいち(2025)、KADOKAWA)は、地球に生命が誕生してから現代の人類に至るまで──その進化の過程を指先でたどれる、子どもから大人まで楽しめる科学絵本です。
最大の特徴は、タイトルの通り、生物の進化系統樹を迷路のような「道」に見立て、指でなぞりながらたどれる点にあります。
生命の始まりを起点に、ページをまたいでつながる進化の「道」を追っていくと、カブトムシもティラノサウルスも人間も、同じ大きな流れの中にあることが見えてきます。そして、それぞれが“なぜその姿になったのか”を、進化の視点から直感的に感じ取ることができます。
「クジラとカバが仲間?」「鳥は恐竜の生き残り!?」──ページをめくるたびに想像がふくらみ、壮大な生命の歴史へと引き込まれていきます。
文字が読めない小さな子どもでも迷路遊びのように楽しめ、大人にとっては最新の知見に基づく系統樹や進化の視点を自然に体感できる、まさに遊びと学びが共存する一冊です。
進化をたどる共通祖先の姿を描く
本書には、古生物から現生種まで、じつに190種類以上の生きものが登場します。
進化の「道」上には、その途中にいたと考えられる共通祖先の姿も描かれ、子どもでも視覚的に理解しやすいよう配慮されています。
アンモナイトの化石(提供:PhotoAC)これらの祖先像は、確かに存在したと考えられるものの、化石として確かに姿が残っているわけではありません。
そこで、化石記録や近縁種の形態、最新の研究成果をもとに姿を推定。監修・文を担当した三上智之さん(国立科学博物館 日本学術振興会特別研究員PD)と、絵を手がけるかわさきしゅんいちさんが協力し、「ほんとうにいそう!」と思えるほど精緻で魅力的なビジュアルを完成させました。
三上さんは「ゆるふわ生物学」のメンバー(みかみん名義)としても知られ、身近で楽しい切り口から生物学を発信。「ゆるふわ生物学」のYouTubeチャンネルでは、かわさきさんとともに語る本書制作の裏側が公開されており、細部に込められた工夫や苦労の跡を知ることができます。
大人の本気は、やっぱり面白い
巻末の解説には、「(これら祖先像は)あくまで想像」としっかり明記され、根拠となった生物や論文まで、QRコードを通じて公開されています。
これら祖先像の制作過程だけでなく、進化の種類や系統樹の推定方法。本書の編集意図と、込められた想いまで丁寧に説明されており、各分野の研究成果への敬意と、読者に寄り添う誠実な姿勢がひしひしと伝わってきます。
ぎっしり描き込まれた生きものたち、緻密に設計された系統樹、膨大な資料から創造された祖先像。子どもには夢中でページをめくってほしい一方、大人からは思わず拍手を送りたくなる労作です。
遊び心と探究心が響き合うこの絵本を、ぜひ体験してみてください。大人の本気は、やっぱり面白い──きっとそう実感できるはずです。
さらに「生命を継ぐ」というテーマでつながる一冊として、クジラが死んだら何が起きるのかを描いた絵本『クジラがしんだら』(文/江口絵理 絵/かわさきしゅんいち 監修/藤原義弘(2024)、童心社)もおすすめ。こちらもまた、大人の本気が凝縮された一冊ですので。