小さな海鳥として知られるヒメクロウミツバメは、環境省レッドリストで絶滅危惧II類に分類されている希少な鳥類です。
本種は夏の間に子育てをする渡り鳥であることも知られています。しかし、本種は人の目が届かない海上を飛行するため、非繁殖期の行動は謎に包まれていました。
北九州市立自然史・歴史博物館の中原亨氏らから成る研究グループは、福岡県の小屋島に飛来するヒメクロウミツバメを調査。非繁殖期の動きを明らかにしました。
この研究成果は「Bird Conservation International」に掲載されています(論文タイトル:Seasonal migration across the north-western Pacific and Indian Oceans inSwinhoe’s Storm-petrel Hydrobates monorhis)。
ヒメクロウミツバメ
ヒメクロウミツバメ Hydrobates monorhis は全長20センチほどの小さな海鳥です。
本種の繁殖地は主に日本・ロシア・朝鮮半島・中国・台湾の沿岸にある島々で現在、日本では6か所で繁殖が確認されています。
ヒメクロウミツバメ(提供:PhotoAC)日本においては、環境省のレッドリストで絶滅危惧II類、福岡県のレッドリストでは絶滅危惧IA類にされる希少な鳥です。
非繫殖期の行動は謎
本種は初夏に繁殖地に飛来し、夏の間に子育てをする渡り鳥でもあります。しかし、本種は海上を飛行することから人目につきにくく、非繫殖期の行動はあまりわかっていませんでした。
そうした中で、北九州市立自然史・歴史博物館の中原亨氏らから成る研究グループは、福岡県の小屋島に飛来するヒメクロウミツバメをに追跡機器を装着し放鳥。
再捕獲したヒメクロウミツバメから装置を回収し、データの解析を行いました。
越冬海域を特定 秋・春の渡り航路も明らかに
データを解析した結果では、越冬海域が特定されたほか、秋・春の渡り航路が明らかになっています。
春の渡りは距離にして1万3000キロメートル
秋については部分的な航路しか推定されていないものの、小屋島を出発した後、東南アジアのスンダ列島らへんまで南下、西~北西に進みアラビア海に到達したと推測されました。
対して、春については全体を通して航路が推定されています。
データではヒメクロウミツバメがアラビア海から東~南東へ進み、スンダ列島の海峡を経由してインド洋へ、その後、南西諸島近海を北上して小屋島へ戻っていることがわかったのです。
その総距離は1万3000キロメートル以上に及ぶといいます。
アラビア海で越冬
データからはヒメクロウミツバメが冬の間にアラビア海を広く使っていることも判明。さらに個体による利用海域の違いも見出されています。
日本に来る渡り鳥は、南北に長い渡りを行う種が多く、ヒメクロウミツバメのように東西に大きく移動する渡り鳥は、カッコウなど一部の種でしか知られていないようです。
さらに、東アジアで繁殖する海鳥で大規模な東西の移動が判明したのは、今回が初だといいます。
保全活動にも貢献
今回の研究により、ヒメクロウミツバメが最規模な東西の移動を行うこと、その総距離が1万3000キロメートル以上に及ぶことが明らかになりました。
現在、環境省のレッドリストで絶滅危惧II類、福岡県のレッドリストでは絶滅危惧IA類にされるヒメクロウミツバメ。今回の成果は本種を保全する上で重要な知見となるでしょう。
(サカナト編集部)