ひょっとこのような小さな口に、薄くひし形の体。ウロコはなく、サメ肌のようにざらりとした皮を持つ、どこか愛嬌のある魚・カワハギ。
実はこのカワハギ、地域によっては少し驚くような別名で呼ばれています。
新年早々、その呼び名に戸惑う出来事がありました。
「いいハゲをもろうた」と言われた日
年末年始、広島県にある夫の実家で年越しをしていたときのことです。
食後のお茶を飲んで一息ついていると、インターホンが鳴り、義父が玄関へ向かいました。「宅配便かな」と思っていた私は、戻ってきた義父の一言で目が覚めるのでした。
「ものすんごい、いいハゲもろうたよー」
一瞬、意味が分からず思わず聞き返してしまいましたが、「魚のハゲよ」という返事が返ってきました。どうやら“ハゲ”とは魚の名前だったようです。
その後、畑から戻った義母に事情を聞くと、笑いながらこう教えてくれました。
「それ、カワハギのことよ。こっちじゃハゲって言うんよ」
カワハギはなぜハゲと呼ばれるのか
カワハギを「ハゲ」と呼ぶのは、関西地方や瀬戸内海沿岸で使われる呼び名のようです。地域によっては、「マルハゲ」や「バクチウオ(バクチ)」と呼ばれることもあります。
カワハギ(提供:PhotoAC)これらの呼称については、由来としてよく挙げられる説が二つあります。
一つは、調理の際に皮を簡単に“剥ぐ”ことができるため。もう一つは、賭け事に負けて“身ぐるみを剥がされる”様子に例えられたという説です。
少し強烈な由来ですが、地元ではごく自然に使われている呼び名のようでした。
賢い魚?カワハギならではの漁法
カワハギは口が小さく歯が鋭いため、釣りエサを器用についばむ魚としても知られています。
気づかないうちに餌だけがなくなっていることもあり、“エサ取り名人”と呼ばれることもあるほか、その賢さに惹かれる釣り人も多いそうです。
一方で、比較的流れの穏やかな浅瀬を泳ぐことが多く、逃げる動きもゆっくりなため、銛(もり)漁が行われることもあります。
ハゲの煮付けは「おふくろの味」
いよいよカワハギの煮付けが食卓に並びました。真っ白なひし形のカワハギが煮汁の中で輝いています。
カワハギ(ハゲ)の煮付け(提供:PhotoAC)一口食べて、そのやわらかさと甘みに驚きました。身はふわっとして癖がなく、噛むほどに旨みが広がります。
義母の味付けは、醤油ベースのやさしい煮汁で派手さはありませんが、どこか落ち着く味。いわゆる「おふくろの味」という言葉が自然と浮かびます。
個人的には、これまで食べた白身魚で一番おいしいと感じるほどでした。
呼び名の奥にある食文化
「ハゲ」という呼び名に最初は戸惑いましたが、今ではその言葉から、ふわふわの白身や煮汁の香り、うれしそうな義父の顔が思い浮かびます。
驚きの別名の裏には、地域ならではの食文化と日常がありました。私にとってカワハギは、名前とともに記憶に残る魚になったのです。
(サカナトライター:うる)