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インド洋熱水域固有の巻貝<スケーリーフット>の分散史とは? 複数の遺伝的集団が明らかに

国立研究開発法人海洋研究開発機構・超先鋭研究開発部門超先鋭研究開発プログラムのChong CHEN主任研究員、高井研プログラム長を含む国際共同研究グループは、熱水噴出孔に生息するスケーリーフットを対象に集団ゲノム解析を実施しました。

これにより、8つの熱水域間の分散史が明らかになっています。

この研究成果は2026年2月12日付で「Current Biology」に掲載されました(論文タイトル:Dispersal and isolation of the scaly-foot snail across abyssal insular habitats and through time)。

深海に存在する<熱水域の生態系>

深海に存在する熱水噴出域では、熱水に含まれる硫化水素や水素ガスなどを酸化して得られる化学エネルギーを基にした「化学合成生態系」が形成されています。

熱水域は中央海嶺・火山弧といった活動的な海底に点在。場所によっては、互いが数百から数千キロメートルも離れています。

熱水でしか生きることができない生物からすると、熱水域はまるで“海底の島”と言えるようです。

熱水噴出域間の移動では多くの場合、幼生期の分散に依存。幼生が海流に乗って別の熱水噴出孔域に到達できるかどうかは、集団の遺伝的多様性だけでなく、種分化にも関わる大きな要素だといいます。

今後予想される海底の開発

熱水域では熱水鉱床が発達することから、将来の商業的な開発が予想されています。

開発によって生息環境を著しく攪乱することが懸念されており、IUCNのレッドリストでは多くの熱水固有種を絶滅危惧種に指定。近年は「どこを優先して守るのか」「どこが替えの効きにくい場所か」を科学的根拠に基づき示すことが求められているといいます。

特にインド洋では多くの熱水噴出域が公海にあることに加え、4ヵ国の探査鉱区に含まれていることから、保全に必要な情報の整備が必要とされています。

熱水域の巻貝<スケーリーフット>

スケーリーフット Chrysomallon squamiferum という巻貝は、インド洋の熱水域に広く分布する代表的な固有種です。

スケーリーフットのイラスト(提供:illustAC)

本種は複数の海嶺にまたがって発見されており、インド洋熱水間の分散経路や分断が起こる要因を検証するモデルケースとして最適。加えて、スケーリーフットは全ゲノムの解読がされていることから、ゲノムレベルでの集団遺伝解析が可能な生物でもあるのです。

5つのグループが見出される

今回の研究では、インド洋にある8つの熱水域から計125個体のスケーリーフットが採取され、集団ゲノム解析がおこなわれました。

解析の結果、8つの熱水域から採取されたスケーリーフットは大きく分けて5つのグループになることが判明。中でも、最南部の「Longqi–Duanqiao」と北部の「Wocan」は、他の熱水域と比較して遺伝的独自性が高いことが明らかになりました。

この2つのように遺伝的独自性の高い集団は、一般的には優先して保全する候補になるとされています。

スケーリーフットは北から南へ 「断層で分散」と推定

さらに、スケーリーフットの分散には方向性があることも示されました。

具体的には、全体として南から北へと分散する方向があり、最南部の「Longqi」周辺からはじまり、約20~40万年をかけて幼生分散により、最北端の「Wocan」まで北上したと評価されています。

深海にも海流は存在し、特に海嶺の上には、海嶺に沿う深層流が卓越するようです。熱水噴出域間における幼生の分散では、この深層流がまるで“高速道路のような役割”をしているといいます。

一方、幼生分散の障壁としては、海嶺上のトランスフォーム断層と呼ばれる、東西にのびる断層が大きく寄与していると推定。これにより、幼生分散の高速道路が分断され、熱水噴出域間の繋がりが弱まっている可能性が指摘されています。

また、未発見あるいは活動を停止した「ゴースト集団」の存在も推定されました。研究グループはこれらの集団がスケーリーフットの分散に大きく寄与してきた可能性があるとしています。

開発による影響を評価

今回の研究によって、現在、インド洋の熱水噴出域固有種のスケーリーフットが5つの集団に分かれること、2つの集団では遺伝的独自性が高いことが判明しました。

この成果は深海熱水鉱床の開発による生態系・海洋環境への影響を評価し、保全する上で重要な知見になると考えられています。

(サカナト編集部)

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サカナト編集部

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