今ではめっきり見かけなくなったタニシ。淡水に生息する巻貝の仲間ですが、とても興味深い生態の生き物です。
この記事では、小学生の頃、田んぼで見つけたタニシがどうやって産まれるかを巡って、知らない男の子と議論になった話をもとに、マルタニシの生活史を探ります。
田んぼでの出来事
それはわたしが小学3年生の時。当時通っていた小学校の周りにはわずかながら田んぼが残っていて、学校帰りに田んぼを覗いて生き物を探しました。
逆さまに泳ぐ姿が印象的なホウネンエビ、しましま模様のウマビル、何種類ものトンボ……そして、わずかながらマルタニシもいました。
そんなある日、わたしは友人とマルタニシは貝だが子どもを産むのだという話をしていました。そこへ1年生くらいの、タモを持った知らない少年が、わたしに向かって「違うよ。タニシは卵だよ」と声をかけてきました。
驚いたわたしは、図鑑ではそう書いてあったよ、と返答すると、「そんなわけない、卵だよ」と譲りません。結局そのまま、しばらく2人で押し問答となりました(その後どうなったかの記憶は、なぜか抜け落ちている)。
マルタニシはどんな貝?
マルタニシは殻の高さが3~5センチほどの淡水性巻貝で、他のタニシの仲間と比べて、殻の巻きが膨らんでいて、全体に丸みを帯びています。
巻貝ですがえら呼吸で、殻には蓋があり、冬眠中や乾燥している状況では、蓋を閉じて泥の中に潜り、ある程度耐えることが出来ます。泥の中に混じっている藻や有機物などを食べるため、水をきれいにする掃除屋としても知られています。
オスの触覚は右側が曲がっていて、この触覚が交接器の働きをして体内受精をします(増田修, 2011, 農文協, 田んぼの生きものたち タニシ・広島大学デジタルミュージアム – マルタニシ)。
かつては全国の水田や池、沼などの泥の中に普通に見ることが出来た貝です。現在は水田の減少や、環境悪化など複数の要因で生息数が減少し、わたしの故郷、愛知県でも個体数は減少しています(レッドデータブックあいち2020 マルタニシ)。
卵で産まれる?稚貝で産まれる?
さて、マルタニシは卵で生まれるのか、それとも稚貝で産まれるのか。
マルタニシをはじめとするタニシの仲間は卵胎生といって、体内受精した卵がメスの体内で孵化し、稚貝になってから外へ産まれ出ます。一度に産まれる稚貝の数は30匹前後で、親貝をそのまま小さくしたような姿をしています。
ちなみに、田植え直後の柔らかい苗を食べてしまうなど、水田で被害をもたらすジャンボタニシですが、正式な和名はスクミリンゴガイといい、タニシとは別の仲間の貝です。卵胎生ではなく、ピンク色の巨大な卵の塊を産みます。
理解できていなかった「卵胎生」
ここで冒頭のお話に戻ります。
少なくともその時のわたしはまだ小学生だったとはいえ、タニシは卵を体の中で孵化させて、稚貝がある程度の大きさになってから、外へ産まれ出るということを、その少年にきちんと説明できるだけの理解が出来ていませんでした。そのことを自覚せず、ただ少年と言い合いになっていたのでした。
図鑑を読んだだけで理解したと思い込んでいたことは、巡り巡って大人になったわたしの胸にグサリと刺さる思い出になりました。自戒も込めて、本記事を綴りました。
(サカナトライター:atelier*zephyr)