磯遊びや釣りをする方は、足元の岩に謎の平たい物体が付いているのを見たことがないだろうか?
写真を見ていただければ、「ああ、これか」と思う方もおられよう。フナムシにも似ている。しかし、普通のフナムシなら人が近づくと逃げるが、この物体は全く動こうとしない。筆者の友人は「フナムシのサナギではないか」と言っていた。
今回はこの物体が一体何なのか正体を暴いていこう。
正体は「ヒザラガイ」という貝
結論から言ってしまうと、これはヒザラガイという名の貝の仲間である。
扁平な体に8枚の殻を持ち、分類としては軟体動物の多板綱に分類される。節足動物のフナムシとは全く違う生き物であるということがお分かりいただけるだろう。
ヒザラガイは普段はしっかりと岩に張り付いているが、張り付いている腹面に粘液に覆われた足を持っている。足といってもトコトコ歩くわけではなく、ほかの貝類、例えばアワビ類のように、岩に張り付いたままゆっくりと滑るように移動する。
主食は岩の表面についた藻類で、それらを齧り取って生活している。
余談であるが、ヒザラガイの吸着力は非常に強力で、薄い金属の板などでこじ開けるようにしなければ採集することはできない。
筆者は一度アワビを取る専用の道具を使ってヒザラガイを剥がしたことがあるが、15分ほどかかり、大変な重労働であった。
ヒザラガイは100種類もいる
日本にはおよそ100種類のヒザラガイが生息している。
磯で普通にみられるものはヒザラガイ、ウスヒザラガイ、ケムシヒザラガイ、ケハダヒザラガイ、ババガセなどである。
特筆しておきたい面白いヒザラガイはババガセで、ヒザラガイの中では珍しい肉食性の種である。
ババガセは岩に張り付く際、わざと少し体を反らせて岩と自分の体の間に隙間を作り、間に迷い込んできた小型の甲殻類などを襲って食べるというなかなか凶暴な生き物である。
ちなみにババガセという名は「おばあさんの背中」という意味である。
また、北海道にはオオバンヒザラガイという非常に大型のヒザラガイがいる。体長30センチ、重さは1キロを超えるという。
ヒザラガイを食用とする地域もある
日本の磯に普通に生息しているヒザラガイであるが、「貝の仲間であるからには食用にされていないのか?」と疑問を持つ方もおられるだろう。
実は、ヒザラガイを食用にする地域はある。高知県土佐清水では、お祝いの席の料理としてヒザラガイの天ぷらを食べるという。
また、鹿児島県の喜界島ではクンマーと呼ばれ、酢味噌和えや煮つけ、炒め物で食べる文化がある。
ただし、ヒザラガイの食用には注意点もあり、ほかの貝でも見られる貝毒の危険や、アレルギー反応の危険性もあることを注意されたい。
奥が深いヒザラガイ
ヒザラガイについて、その生態から利用法まで紹介したが、皆さんの疑問は晴れただろうか。
磯辺に行く際は足元をチェックしてヒザラガイを見つけ、図鑑などでしらべてみるのもいいだろう。
(サカナトライター:宇佐見ふみしげ)