海洋に生息する爬虫類の1種、アオウミガメ。
本種はふ化し数年の外洋での生活を経た後、沿岸部で海藻や海草を主食とする一方、一部の地域ではクラゲ類を捕食することが分かっています。しかし、クラゲ類は水分が多くエネルギー密度が低いなどの理由から栄養価の低い生物とされ、クラゲ類の餌としての重要性は明らかになっていませんでした。
そのような中、東京大学農学生命科学研究科の河合萌氏と大気海洋研究所の佐藤克文氏らの研究グループは、バイオロギングにより海中での採餌行動を観察。クラゲ類を捕食するアオウミガメが草食性の個体よりも活動時間が長く、摂餌頻度が低いにもかかわらず、良い栄養状態を示すことを明らかにしました。
この研究成果は『Marine Biology』に掲載されています(論文タイトル:Seasonally migrating juvenile green turtles (Chelonia mydas) feeding on gelatinous prey exhibit better nutritional status than resident herbivorous individualsKiminori)。
クラゲを捕食する生物たち
従来、クラゲ類は水分が多くエネルギー密度が低いことなどの理由から栄養価の低い生物と考えられてきました。

しかし、近年は魚類や甲殻類、頭足類、さらには鳥類など様々生物がクラゲ類を捕食していることが確認されていることから、クラゲ類の食用としての重要性が注目されています。また、クラゲ類を食べる生物としては爬虫類の1種であるウミガメが有名であり、ウミガメの中でも最大サイズに成長するオサガメは1日あたり330キロものクラゲ類を捕食するといいます。
ウミガメとクラゲ
亜成体のアオウミガメは、一般的に孵化して外洋生活を経た後、沿岸の狭い範囲に定住しつつ海藻や海草を主食として生活します。一方、アオウミガメが長距離移動をしながらクラゲ類を捕食するといった研究も報告されているようです。

ウミガメが何をどのくらい食べたかのかは主に解剖により調べられてきましたが、海藻・海草とクラゲ類では消化速度が異なるため、両者の摂餌量を比較することは困難でした。
そうした中、東京大学農学生命科学研究科の河合萌氏と大気海洋研究所の佐藤克文氏らの研究グループは、バイオロギング(対象に小型の記録計えお装着し行動・生態を調べる手法)を用いて、海中での摂餌行動や摂餌量の比較を実施。アオウミガメにとってクラゲ類が重要な食糧であるかどうか調べるため研究が行われました。
黒島と三陸のアオウミガメを調査
今回の研究では沖縄島八重山諸島黒島の周辺、岩手県大槌町を中心とした三陸沿岸で調査が行われています。

黒島は熱帯域に位置し、周囲は海藻や海草が繁茂する海域です。この海域には数十平方キロメートルという狭い範囲に定住する、草食性のアオウミガメが多数生息しています。
一方、温帯に位置する三陸では水温の季節変動が大きいこともあり、アオウミガメにとっては夏季に限られた採餌場です。また、三陸のアオウミガメが数百キロにも及ぶ長距離移動をし、海藻・海草に加え、クラゲ類も捕食することが知られています。
アオウミガメに記録計を装着した結果
研究では、黒島周辺と三陸2地域のアオウミガメの亜成体に記録計を装着して海中での摂餌行動が調べられました。
結果、放流期間中の活動時間は黒島のアオウミガメが約63%だったのに対し、三陸のアオウミガメは約90%であることが明らかになっています。また、餌の獲得頻度に関しては、黒島のアオウミガメが1時間あたり、最大908回も海藻・海草に嚙みついていた一方、三陸のアオウミガメでは採餌場に滞在している際、海藻・海草を食べ、水面に移動する際にクラゲ類を捕食することが確認されました。
これらのことから、黒島のアオウミガメは短時間で安定した餌を獲得できていた一方で、三陸のアオウミガメは活動時間が長いにもかかわらず、時々餌を獲得する程度であることが分かったのです。
三陸のアオウミガメの栄養状態
また、体長と体重の比率から算出される肥満度および血中のタンパク質濃度に基づく栄養状態は三陸のアオウミガメのほうが良い傾向であることも判明しています。
この研究で得られた結果から、アオウミガメにとってクラゲ類が重要な餌資源であることが示されました。また、行動面のみの比較では黒島のアオウミガメのほうが採餌能率に優れているように見える一方、クラゲ類の捕食はそれを上回る恩恵をもたらしている可能性があると考えられています。
ウミガメの健康に及ぼす影響を予測
今回の研究では草食性のアオウミガメよりクラゲ類を捕食しているアオウミガメのほうが、活動時間が長く摂餌頻度が低いにもかかわらず栄養状態が良いことが判明。クラゲ類がアオウミガメにとって重要な餌であることが示されました。
これらのことが明らかになったことにより、海草藻場の減少で餌環境が変化する中、ウミガメの健康などに及ぼす影響を予測するために役立つことが期待されています。
(サカナト編集部)