四方を海で囲まれた日本では古くから漁業が盛んに行われてきました。
しかし近年、水産資源が減少している魚も多く、持続的な利用には計画的な漁業の実施と乱獲防止が求められています。これらの対策には対象となる魚の寿命や成長についての知見が必要不可欠ですが、マナガツオにおいては多くが謎に包まれていました。
そうした中、長崎大学の山口敦子教授と荻野義視研究員は有明海とその近海で漁獲されたマナガツオの年齢を査定。2017年生まれのマナガツオが全く見られないこと、内湾の塩分が高いと繁殖に失敗することを明らかにしました。
この研究成果は『Estuarine, Coastal and Shelf Science』に掲載されています(論文タイトル:Growth and year-class dynamics of the Japanese silver pomfret Correlation between salinity and recruitment)。
資源管理に欠かせない情報
日本では古くから各地で漁業が盛んに行われていました。一方で、近年はいくつかの魚種で資源量の減少が指摘されており、持続的な利用には計画的な漁業と獲り過ぎの防止が求められています。
これらの対策において、対象魚の寿命と成長についての情報は必要不可欠。しかし、マナガツオについては、これらのデータが明らかになっていませんでした。
西の高級魚「マナガツオ」
マナガツオはマナガツオ科マナガツオ属に分類される魚です。

「西にサケなく、東にマナガツオなし」ともいわれる高級魚で、古くからサケと対比にされてきました。全長は最大で57.5センチ、体重は3.8キロにも達する大型種です。
普段は沖合に生息するものの、産卵期は内湾域へ来遊する回遊性魚類でもあり、国内の産卵場として有明海、瀬戸内海、八代海が知られています。全国で食用とされる魚で、関東域でも一般的に流通する魚です。
“2017年生まれ”が全く見られない
マナガツオの寿命・成長に関する情報が乏しい中、長崎大学の山口敦子教授と荻野義視研究員は有明海とその周辺海域で漁獲されたマナガツオについて、寿命と成長を明らかにすべく耳石解析による年齢査定を実施しました。
耳石解析では出現する年齢に偏りがあることが明らかになっており、2016年生まれのマナガツオが多く見られた一方、2017年生まれの個体は全く見られなかったといいます。

この違いについて研究チームは、水温・塩分・溶存酸素量などの環境要因や親魚の来遊量・クラゲの出現量との相関を調査。その結果、繁殖期の内湾域の塩分濃度がわずかに高いだけで、マナガツオはその年の繁殖に失敗することが明らかになったのです。
マナガツオはアジアを代表する食用魚ですが、日本の集団は小規模であることから、繁殖の失敗が続くことにより資源の消失が懸念されています。
今後は塩分にも注目
今回の研究ではマナガツオ科で初となる耳石切片による年齢査定に成功しています。さらに、内湾域の塩分濃度がマナガツオの繁殖成功を左右していることが明らかになり、沿岸の高塩分化が深刻な問題を引き起こす可能性が示されました。
今後は、沿岸域において広く塩分の動態を調べ、生物との関係を探ることにより、沿岸生物の生産量回復に繋がることが期待されています。
(サカナト編集部)