タイコウチという生きものを知っていますか?
今から40年ほど前までは日本の水田や池沼で普通に見られる水生昆虫でしたが、現在ではなかなか見つからないので知らない人も多いのではないでしょうか。
薄っぺらく細長い昆虫なのですが、実はすごい特技を持っています。見つけたらバケツなどに入れて、驚きの生態を観察してみましょう。
タイコウチとは?
タイコウチ(学名:Laccotrephes japonensis)は大まかにいうとカメムシの仲間で、カメムシ目タイコウチ科に属する肉食水生昆虫です。
タイコウチの名前は泳ぐ際の前足の動きが太鼓を打つような動作に見えることから、「太鼓打(タイコウチ)」と名付けられました。
タイコウチ(提供:PhotoAC)タイコウチの特徴は、細長い尾とストロー状の口、そして大きな前足です。この長い尾がサソリを連想させることから、英名ではWater Scorpionと呼ばれます。
北海道を除く日本各地の水田や流れの弱い河川などに生息しており、体長約40ミリくらいになります。5回の脱皮により成虫になるのですが、ほっそりしたタガメのような見た目をしています。
なお、掴むと死んだように動かなくなるので、最初はびっくりしますが、放してしばらくすると動き出します。これを「擬死」といいますが、「生存本能ってすごい!」と感動すること間違いなしです。
タイコウチの狩りの様子
タイコウチは大きな前足で捕まえた魚や昆虫などの水生動物にストロー状の口を突き刺し、消化液を送り込んで溶かしながら吸入(体外消化)します。
魚を捕食中のタイコウチ(提供:額田善之)小さな生きものにとっては、刺されたら一巻の終わり。なお、捕獲中に人を刺すこともあるので気をつけましょう。人は刺されても死ぬことはありませんが、かなり痛いです。
タイコウチの呼吸の仕方
タイコウチはこう見えても昆虫なので、空気を取り込んで呼吸をします。長いストロー状の尾を使って呼吸するのですが、その姿はまるで忍者の“すいとんの術”みたいです。
呼吸中のタイコウチ(提供:額田善之)狩りの際も、尾の先を水面から出して呼吸しながら、餌になる生き物を探しています。
タイコウチは絶滅危惧種
タイコウチは東京都や沖縄県、新潟県などで絶滅危惧種I類に指定されています。同じタイコウチ科の仲間であるヒメタイコウチやタイワンタイコウチも一部の地域では絶滅危惧種です。
タイコウチ(提供:額田善之)タイコウチの減少は魚と同じで、農薬や護岸工事などの影響で生息域が減少したことが大きな原因だと考えられています。
我々ができることは、貴重な水生昆虫の住処を守るためにゴミのポイ捨てなどをしないことです。皆で水生動物を絶やさない努力を続けましょう。
タイコウチを楽しくガサガサして捕獲した後は、観察して元の場所へ戻してあげてくださいね。
(サカナトライター:額田善之)