高い知能を有する鯨類では、これまでに様々な社会的行動が報告されてきました。しかし、中には野生下の社会的行動が知られていない種もいます。
例えば、ハクジラ類のスナメリは背ビレを欠くことから、個体識別が困難であることが理由として挙げられます。
そうした中で、近畿大学の野呂苑衣子氏らから成る研究グループは、野生スナメリのアロマターナル行動を観察することに成功。スナメリが高い社会性を持つ可能性が示唆されました。
この成果は「Mammal Study」に掲載されています(論文タイトル:Observations of changing partners during parallel swimming behavior between neonatal and adult finless porpoises (Neophocaena asiaeorientalis) in Ise Bay, Japan)。
日本各地にも生息する小型の鯨類「スナメリ」
スナメリは東アジアの沿岸部や大きな河川に生息する鯨類です。大きな群れは作らず、単独で行動すると考えられています。
日本では東京湾や大阪湾、瀬戸内海仙台湾など各地に生息し、骨格や遺伝情報の違いにより5つの集団に分けられることが知られています。
スナメリ(提供:PhotoAC)スナメリは小さいことが特徴で、最大体長が2メートル程と鯨類としては小型の部類。また、スナメリはバンドウイルカやカミルカなどと異なり、背びれを欠くことも大きな特徴として挙げられます。
一方、背びれを持たないことは、スナメリの特徴であると同時に本種の個体識別を難しくしている要因の1つです。それため、野生下におけるスナメリの社会性に関する研究は進んでいませんでした。
成体が自分の子ども以外の幼体に関わる<アロマターナル行動>
哺乳類や鳥類で多く報告されている「アロマターナル行動」。
アロマターナル行動はその種の成体が自分の子ども以外の幼体に関わる行動で、成体が幼体に無関心であること、世話や虐待が目的と仮説されています。この行動はハクジラ類でも報告があるため、スナメリでも同様の行動をしている可能性があったものの、その詳細は不明でした。
そうした中で、近畿大学の野呂苑衣子氏らから成る研究グループは野生のスナメリにおいてアロマターナル行動を観察することに成功します。
スナメリは高い社会性を持つ
研究グループがアロマターナル行動の観察に成功したスナメリは、三重県津市町屋海岸の個体。スナメリの子どもと成体が並んで泳ぐ姿をドローンを用いて観察しました。
スナメリ(提供:PhotoAC)観察された子どものスナメリは19個体、このうちの4個体では成体が交代で並泳する様子が確認されています。加えて、成体と子どもの間では体を擦り合わせる行動や授乳が確認されており、敵対的な行動は見られなかったようです。
これらの社会的行動は子どもが成体を使用していることに対し、成体が許容または無関心であること、誘拐などの虐待が考えられています。
社会性の発達に寄与している可能性
今回の研究によりスナメリのアロマターナル行動が観察され、本種が高い社会性を持つことが示されました。
この行動は、単独でいる割合が多いスナメリにおいて、社会性の発達や母と離れている時間を補填するものと考えられています。
また、この成果がスナメリの社会性を理解する上で重要な知見になることが期待されています。
(サカナト編集部)