サカナに特化した本屋・SAKANA BOOKS(サカナブックス)が2023年8月から開始した水生生物クリエイター向けの棚貸しサービス『SAKANA APARTMENT(サカナアパートメント)』。
今回はSAKANA APARTMENTの304号室に現在入居中の工房彩陶 齋藤敦さんに、水生生物や制作活動への思いを語っていただきました。
最初は趣味からはじまった、陶芸の道
━━━現在SAKANA APARTMENTでは、さまざまな水生生物の陶芸作品を置いていただいています。普段は主にどのような作品をつくったり、活動をされたりしていますか?
海の生き物をモチーフにした陶芸作品をつくっています。メインはクジラの仲間やシャチなど大きな海獣から、イカ、エビの仲間など小さな生物まで、対象は海の生き物全般です。
SAKANA APARTMENTに置いている小さめのカップ等以外にも、もう少し大きなお皿や鉢など日常づかいに対応できる食器を主に制作しています。
活動範囲としては、月1回程度のペースで開催される東京近郊でのハンドメイドのイベント(※)に出展しています。あとは、オンラインショップでも出品・販売していますよ。
※イベント:博物ふぇすてぃばる、ハンドメイドインジャパンフェス、デザインフェスタ、観音崎あにぷらまつり、東京海洋大学うみたかマルシェなど
━━━齋藤さんが、陶器の制作を始めたきっかけは何ですか?
元々はIT関係の会社に勤めるサラリーマンでしたが、当時趣味を探していたこともあり、知り合いの陶芸家に陶芸を習い始めました。それが2007年くらいのことで、楽しくてどんどんハマっていきました。
その後、自宅(マンション)の一室に陶芸窯を設置して、自宅でも陶芸作品を制作できるようになりました。ちなみにその窯は洗濯機くらいの大きさで、窯の内部は1250℃まで高温になります。使用中は室温が40℃を超えてしまいます。
━━━冬は暖房をつけなくても暑いくらいですね。
そうですね(笑)
そうして平日はサラリーマンとして働き、土日に陶芸をするという、いわゆる「週末陶芸家」として活動していました。そんなかたちで5年程活動して、いよいよ2020年に勤めていた会社を退職し、陶芸一本で活動を始めました。
でも、活動開始した途端にちょうどコロナ禍と重なってしまって、いきなり各地の対面のイベントは激減してしまいました。それでも何とかSNSを使って活動を知ってもらうことに力を入れて、販売はオンラインショップを中心に活動していきました。
海が身近だった幼少期から、海を身近に感じる器づくりへ
━━━陶芸作品のモチーフにされている海の生き物をはじめとする、水生生物を好きになったきっかけはありますか?
出身が(神奈川県の)横須賀で、家から徒歩5分のところに海がありました。そのため子どもの頃は魚釣りをしたり、海でよく遊んでいました。
━━━それが原体験なのですね。
ですが大人になってからは、住む場所が海から離れたため、自然と海とのつながりは少なくなっていきました。
子どものころの体験が影響したのかわかりませんが、陶芸を始めてから、自然と海の生物をモチーフにするようになっていました。それに食器はお魚のモチーフとの相性がとてもいいんです。
各地のハンドメイドイベントに出展するようになってからは、魚に詳しい作家さんから色々な情報をもらったり、自分でも調べることが多くなってさらに好きになっていったんです。
━━━そのなかでも、一番好きな水生生物は何ですか?
好きな水生生物はたくさんいますが、陶芸作品でつくることが多いのは、シャチでしょうか。まずフォルムが格好いいです。また、頭がいいところもいいなと思います。
あとは、シャチの熱狂的なファンも多いので、お客様にも喜んでいただいています。名古屋でイベントがある際は、名古屋港水族館にシャチに会いにいくこともありますよ。
━━━制作に関しては、どんなときに楽しさや喜びを感じますか?
なにより、ハンドメイドイベントなどに出展して、実際にお客様とお会いしてお話しすることが楽しみです。水族館職員やダイバーなどマニアックなお魚好きのお客様も多くて、会話のなかで今後モチーフにする生きもののリクエストがあったり、イメージが湧いたりして、作品の幅もひろがります。
あとは、どうやったら、リクエストの生き物を陶器のデザインに落とし込めるかを考えているときでしょうか。デザインするとき、そのモチーフとなる生きものの特徴や、他の種との違いをどのように表現するか、リアルにしすぎず、どこを削ぎ落して、どこを残すかを考えます。
生きものごとに、外せないポイントとなる特徴があるため、試行錯誤してデザインを考えています。
━━━制作をするうえでの、こだわりはありますか?
作品は主に食器なので、実際に使えるものであることがこだわりです。サイズ感や、手に取ったときに持ちやすいかたちなど、使いやすいことを常に意識しています。
作家活動を本格的に始めたころがちょうどコロナ禍だったため、気軽に外食や外出が出来ない時期でした。そのため、みんな自宅での食事をする機会が多くなっていきました。そんな中、毎日の生活で使う食卓用の食器に、好きな生きものが描いてあることで、お客様にも喜んでいただけることが多かったんです。
おちついた雰囲気の食器をお求めになるお客様が多いこともあって、渋めの雰囲気で、大人の方でも食卓で使いやすい食器をつくっています。
また、陶器をつくるうえでの技法として、お皿類には蚊帳目(かやめ)という技法を使用しています。蚊帳布を使って白化粧土を表面に埋め込むことで、ザラツキのあるマットな質感になります。手になじみやすくて、見た目も渋く、雰囲気が出ます。
海の生き物たち、描き方のひみつ
━━━それぞれの生きものの特徴がわかる、魅力的なデザインがほどこされた工房彩陶さんの食器ですが、よろしければ、伺える範囲でどうやって生きものを描いているのかを教えていただけますか?
作品は、すべて手作りで一点ものです。
まず、魚などのモチーフをデザインした紙を、焼く前の土のお皿に置き、その上からボールペンで絵をなぞり筆跡を付けます。
そのあと、着色する色ごとに筆跡を分け、液体ゴム(ラテックス)でお皿にマスキングをします。そして色化粧土(器の素地につかった土とは異なる質や色の、化粧掛け用の土)を塗っていきます。
そうやって白、黒、紺など、色ごとにマスキング、着色を繰り返して塗り重ねていきます(版画のように色を重ねていくイメージです)。
そうして描き終わった皿の上に蚊帳布を置き、上から白い化粧土を塗って蚊帳布を剥がすと、描いた絵の上に蚊帳の目のかたちが浮きだちます。
制作の量としてはイベントなどの開催時期によって偏りはありますが、並行して複数の陶器をつくっていて、だいたい50個/月くらいのペースで作成していますね。
━━━どうやって複雑なデザインを表現されているのか、目から鱗でした!とっても工程数が多くて、職人技の手作業でひとつひとつ、時間をかけて大切につくられていることがよくわかりました。
全国のイベントでお客さまと直接触れ合いたい
━━━最後に、今後の展望はありますか?
現在は東京や関東を中心に、名古屋、浜松あたりまでの範囲で活動をしていますが、今後は全国のハンドメイドイベントなどに出展したいです。
ネットショップでの販売も行っていますが、写真では陶器のもつ魅力(手触り、色合い、重さ、かたちなど)を表現しきれないところもありますし、なによりお客さまとの直接の触れ合いがある対面での販売活動を拡大していきたいという思いがあります。
なかでも水生生物をモチーフとしていることもあり、お魚も美味しい地域である北陸や、東北などのイベントに参加していきたいです。
2024.6.2(日)~8(土) いきものばかり展 vol.2
会場:東京交通会館シルバーサロンB
URL(工房彩陶オンラインストア): https://sai10a24.thebase.in/
SAKANA APARTMENT(サカナアパートメント)
本屋・SAKANA BOOKS で 2023 年 8 月から行っている棚(部屋) 貸しサービス。水生生物をモチーフに創作活動を行うクリエイターのグッズや絵が並ぶ。現在、空き部屋あり(入居者募集中!)。
(サカナト編集部)