この世界には多種多様な生き物が生息し、住む環境に合わせて別々の進化を辿ってきました。
たとえば淡水性ハゼ類の中でも特に多様化した魚がいます。その魚の仲間こそ、「ヨシノボリ類」です。
ヨシノボリ類は、アジア地域に85種以上が分布すると考えられ、国内だけでも18種を確認。同じヨシノボリ類でも住む環境によって、川や湖で一生を過ごすものや、アユやサケのように川と海を行き来するものなど、その生態はさまざまです。
そんなヨシノボリ類の中でも、日本の川で最もよく見られる代表的な存在として、「カワヨシノボリ」がいます。
様々な姿を持つ「カワヨシノボリ」
カワヨシノボリは住む地域によって、遺伝子や形態が異なる5つの分類で分けられています。
それぞれ「無斑型」「斑紋型」「壱岐佐賀型」「富士型」「赤石型」。そして、5つのどこにも分類されていない型は「不明型」と呼ばれ、それぞれ住む環境や生態が異なります。
ヨシノボリ類(提供:PhotoAC)そして、筆者の地元、五島列島・福江島にもカワヨシノボリは生息しています。
近年の研究により、五島列島・福江島産のカワヨシノボリには他の型と比較しても異質な部分があるということで、新たな6つ目の型「五島型」の名称が提唱されているようです。
多様化のプロ「ヨシノボリ」の秘密とは?
様々な型を持つカワヨシノボリ。では、ヨシノボリの仲間はなぜここまで多様化することができたのでしょうか。
京都大学の研究により、ヨシノボリ類の面白い歴史と進化が明かされています。
多様化の鍵(1)「淡水域への高速シフト」
京都大学の研究によると、ヨシノボリ類は適応進化の回数が非常に多く、そのスピードも速いことが分かっています。
川と海を回遊する種から、淡水域(川)で一生を過ごす種への進化を少なくとも4回以上行っており、そこから派生して、淡水性、回遊性と別れていったと考えられているのです。
本来、魚が海から川へ適応するには、劇的な変化と長い年月が必要なはずですが、ヨシノボリ類はこのスイッチを切り替えるのが得意な体質だったのでしょう。
多様化の鍵(2)「卵の適応進化」
ヨシノボリ類の多様化を語る上で欠かせないのが、卵の存在です。
ヨシノボリ類は、生息環境によって卵の大きさが違うという特徴があります。河川に住むヨシノボリ類の卵は大きめなのに対して、湖や池に生息するヨシノボリ類の卵は比較的小さめです。
これは、それぞれの環境で孵化した子供たちが安全に生きていくための適応進化だと言われています。
多様化の鍵(3)「遥か昔に行われた大規模な種間交雑」
ヨシノボリ類の歴史を遡ると、とても珍しい現象が起きています。それが、大規模な種間交雑です。
種間交雑とは、本来は別の種として進化してきた魚同士が交わり、遺伝子を交換すること。普通、種は分かれるとそのまま別々の道を歩みます。しかし、ヨシノボリ類は違いました。
京都大学の研究によると、約70〜250万年前、当時日本にいたほぼ全てのヨシノボリ類を巻き込む“超大規模な交雑”が起きていた可能性が示されたのです。
川に適応した系統、湖に適応した系統、海を回遊する系統、それぞれ違う環境に進化していたヨシノボリ類たちが混ざり合いました。その結果、さまざまな環境に即座に適応できる柔軟な遺伝子へと進化を遂げたのではないかと示唆されています。
進化の歴史が刻まれた小さな体
河川ごとに異なる姿を見せる、カワヨシノボリをはじめとしたヨシノボリ類は、進化が今も続いていることを示しています。身近な川もまた、進化の舞台のひとつなのです。
ごく身近な川で見られる魚でありながら、その体の中には数百万年にわたる進化の歴史が刻まれていることにワクワクしてきませんか?
その姿を観察する機会があれば、ぜひこの一匹に至るまでの進化の歴史にも目を向けてみてください。
(サカナトライター:ティガ)