まるで魚のような形をした魚の骨“鯛の鯛”。
この鯛の鯛をひたすら集め、研究し、小学5年生から中学3年生にかけて9巻にわたる冊子にまとめてきた佐々木蒼大さん。今年3月には冊子の内容をまとめ、さらに書き下ろし原稿を加えた、246ページにもなる書籍『鯛の鯛図鑑』を刊行しました。
【画像】これまでに取り出した“鯛の鯛”でも最大だという“アカマンボウのアカマンボウ”
3月下旬、東京都新宿区にあるサカナに特化した本屋・SAKANA BOOKSを会場に、書籍『鯛の鯛図鑑』の刊行を記念したトークイベント「魚の見方が変わるトーク&ライブ」が開催されました。
イベントには蒼大さんと水産系ピン芸人・さかな芸人ハットリさんが参加。二人によるトークショーのほか、鯛の鯛標本の特別展示、ハットリさんが運営する外来種の生きものを使ったメニューを提供するキッチンカーの出店などが行われました。
当日の様子をレポートします。
魚の骨が主役の図鑑『鯛の鯛図鑑』
『鯛の鯛図鑑』のテーマは、魚の胸びれ付け根付近に存在する小さな骨──通称「鯛の鯛(たいのたい)」です。
魚を食べていると、身をほぐした際にエラのあたりから魚の形をした小さな骨が現れることがあります。それが「鯛の鯛」という、多くの硬骨魚類に見られる骨で、肩甲骨と烏口骨という骨が合わさってできています。
マグロの鯛の鯛(提供:SAKANA BOOKS)「タイから取り出せるタイの形をした骨」ということで、江戸時代から縁起物として扱われてきたそう。
胸ビレがついた魚──例えば、カマや丸ごと一尾の焼き魚、煮魚などであれば必ず見つけることができる骨ですが、意識せずに捨ててしまっている人がほとんどではないでしょうか。
夏休みの自由研究からスタート
著者の蒼大さんはその骨に着目し、小学5年生の夏休みの自由研究として「鯛の鯛」の採集・骨格標本の制作をスタート。約5年をかけて約300種の魚から標本を集め、うち200種分を自主制作冊子『鯛の鯛図鑑』全9巻としてまとめてきました。
その全9巻に書き下ろし原稿とコラムを加えた書籍版を刊行。制作にあたって実施されたクラウドファンディングでは、支援者114人、目標金額の207%という反響があり、刊行前からその注目度の高さが伺えます。
店頭に並ぶ『鯛の鯛図鑑』(提供:SAKANA BOOKS)骨が語る“魚の面白さ”
第一部「鯛の鯛図鑑刊行記念トークイベント」では、蒼大さんが図鑑制作のきっかけや舞台裏を語りました。
「鯛の鯛」に興味を持ったのは小学5年生のころ。自由研究として始めた採集が、気づけば4年半以上続くプロジェクトになっていたといいます。
『鯛の鯛図鑑』著者・佐々木蒼大さん(提供:SAKANA BOOKS)蒼大さんが標本制作にあたってこだわっているのは、採集する際にその魚を必ず自分で食べること。魚を観察しながら食べ、骨を探す──そのサイクルが鯛の鯛図鑑を支えてきたのだとか。
ハットリさんは蒼大さんが5歳のころから交流があり、その成長ぶりを見守ってきたひとり。二人の軽妙なやり取りに会場はたびたび笑いに包まれます。
親子での参加者が多かったこともあり、特にトーク途中で実施された「鯛の鯛クイズ」では子どもが積極的に参加している様子が見られ、会場全体が和やかな雰囲気に包まれていました。
さかな芸人ハットリさんによるミニライブも
第一部と第二部のあいだには、ハットリさんによるミニライブが行われました。
ヒットソングの歌詞を魚の名前だけに差し替えた“替え歌芸”が持ちネタのハットリさん。今回披露してくれたのは、インターネットで話題となっている某人気曲。子どもも大人も大盛り上がりで、会場が一体となった瞬間でした。
さかな芸人ハットリさん(提供:SAKANA BOOKS)また、早口言葉を魚の名前に置き換えたり、即興でお客様が指定した単語を魚の名前に変換する、というネタも披露。お客様とコミュニケーションを取りながら、賑やかな時間を作っていました。
魚の見方を変えてみよう
第二部は、「魚」をさまざまな角度から掘り下げるトークライブ形式で進みました。
それぞれの“魚経歴”に始まり、約300種を食べてきた蒼大さん、釣った魚以外食べない、といった活動をされてきたハットリさんならではの「美味しかった魚・食べるのに苦労した魚」トークでは、会場の子どもたちも身を乗り出して聞き入っていました。
さらに「鯛の鯛の形はヒレの使い方によって変わる」「鰓耙(さいは)を見るとその魚が何を食べているかわかる」という話へと展開。
鯛の鯛についての発表(提供:SAKANA BOOKS)普段は捨ててしまいがちな骨や鰓耙の中に、その魚の暮らしが詰まっている──そんなことを改めて教えてくれるトークライブでした。
鯛の鯛標本の特別展示&外来種キッチンカー
会場内には、蒼大さんがこれまで採集した「鯛の鯛」の標本が特別展示されました。
鯛の鯛標本(提供:SAKANA BOOKS)図鑑を読むだけではわかりづらい、実際の質感や大きさを体験できる貴重な機会。来場者は熱心に標本を観察していました。
“悪ではないけれど害がある” 外来種キッチンカーも出店
また、ハットリさんが運営する「外来種キッチンカー」も出店。“悪ではないけれど害がある”外来種を自ら捕獲・調理して提供するという、さかな芸人ハットリさんの取り組みです。
提供されたのは、アメリカナマズの磯辺揚げと皮せんべい、アメリカザリガニパウダーがかかったポテトです。どれも美味しく、普段とは少し違った観点から外来種について学ぶことができました。
アメリカナマズの皮せんべい(左)、アメリカザリガニ味のポテト(右)(提供:SAKANA BOOKS)会場では魚の骨・魚食をテーマにした特選本コーナーや、缶バッジ・ステッカー・Tシャツなど蒼大さんオリジナルグッズの販売も行われ、終始にぎわいを見せていました。
「ごちそうさま」で終わらせない魚との向き合い方
今回のイベントを通じて感じたのは、「食べること」と「知ること」が、こんなにも近いところにある、ということ。
骨を邪魔者にしない、むしろそこに魚の面白さを見出す──蒼大さんが長い時間をかけて積み重ねてきた取り組みは、そんな小さくて大切な視点の転換を教えてくれました。
さかな芸人ハットリさん(左)、佐々木蒼大さん(右)(提供:SAKANA BOOKS)次は、あなたの食卓でも「鯛の鯛」を探してみてはいかがでしょうか。
(サカナト編集部)