イカやタコなどの頭足類は、進化の過程で殻を失った貝類の仲間。彼らは貝殻を欠く代わりに、高解像度の眼や発達した脳、全身の皮下に分布する無数の色素胞を獲得しました。高い知能はこうした能力に起因しています。
特に頭足類の眼は大きなレンズを有した“カメラ眼”となっており、一部の形質を除き脊椎動物と酷似し、視力は1.4にも達するとか。また、頭足類の眼は体の左右に位置するため、広い視野を持つことも知られています。
琉球大学研究共創機構の杉本親要URA(リサーチ・アドミニストレーター)らの研究グループは、解剖学的手法と行動学的手法の2つを用いて、アオリイカにおける孵化後の視力・視野発達過程を追跡しました。
この研究の成果は「Journal of Experimental Biology」に掲載されています(論文タイトル:Camera-type eye specific visual ontogeny in squid (Sepioteuthis lessoniana))。
頭足類における視力と視野の発達
頭足類における眼の研究は、これまで多くの研究がされてきました。
しかし、眼の構造そのものを調べた知見が多く、視力や視野については十分に研究されておらず、知見の蓄積も不十分だといいます。加えて、視力や視野の発達についても謎が多く残されていました。
スルメイカやアオリイカ──ツツイカ類の知見
視力を調べる手法としては、解剖学的手法と行動実験により割り出す手法の2つが知られています。
両方の手法を用いることで視覚をより詳しく解明することが可能ですが、頭足類の中でもスルメイカやアオリイカなどのツツイカ類は飼育下での実験が困難であり、視力や視覚の知見も乏しいままでした。
アオリイカ(提供:PhotoAC)そうした中で、アオリイカの孵化時から長期安定飼育技術をベースとし、飼育条件下でアオリイカの行動実験を重ねてきた研究グループ。実験では視力と視野を解剖学的手法と行動学的手法により、知見の空白部を埋めることに成功しています。
さらに、今回は成長に合わせて視力が発達する過程を2ヵ月間も追跡するという難しい課題への挑戦が行われました。
アオリイカを用いて実験
研究の対象になったのは、水産上重要な種であるアオリイカです。
実験ではツツイカ類に合う視力と視野の新たな推定方法が考案され、特に行動学的手法ではグッピーの仔魚に対してアオリイカがどのような捕食行動を示すのかが判断基準にされています。
急成長するアオリイカの視力と視野
視力については、解剖学的手法によりイカの眼の成長に伴いレンズが大きくなり、網膜も広がることで、孵化直後から一定のペースで上昇し続けることが判明しました。
行動学的手法では、孵化2週間で視力が急上昇。視野については、解剖学的手法と行動学的手法のどちらでも視覚よりも早く、孵化後1週間で急上昇したようです。
カミナリイカ(提供:PhotoAC)このように手法によって異なる発達過程を示す結果は、イカの「見る力」が眼の成長に伴う視力上昇だけでなく、眼を動かす筋肉や情報を処理する脳など複合的な発達に支えられていることを意味するといいます。
また、孵化直後のアオリイカでは、大きな脳が眼球を腕の方に押しやるように位置しているようです。これは、視力が弱い時期でも両眼立体視により餌を捕まえやすいほか、広く見渡すことで捕食者を発見しやすいと考えられています。
視覚を通した進化過程の解明
今回の研究によって、アオリイカが孵化後に視力と視野を急成長させることが明らかになりました。
視力と視野の急成長は、タコ類とコウイカ類でも見られていることから頭足類共通の特性と考えられています。
この成果は、頭足類における進化過程の解明に知見を提供するものとなりました。また、資源保護や環境保全、養殖などにおいても新たな視点を提供しています。
(サカナト編集部)