バナメイエビやブラックタイガー、クルマエビといったクルマエビ類の養殖は、世界的に成長を続けています。
しかし、そんなクルマエビ類の養殖において、細菌性感染症による被害が安定生産を阻んでいます。薬剤は養殖に向かず、魚類養殖に使われているワクチンも、エビ類では十分な予防効果が得られていないそうです。
そこで、「拮抗細菌」という病原細菌の増殖を抑える菌が注目されています。
従来であれば拮抗細菌を自然環境から探し出し、寒天培地で培養していましたが、候補菌が増え、調査数が増えるほど、培養スぺースや人手が増えていくという問題がありました。
しかし、東京海洋大学の研究グループと株式会社オンチップ・バイオテクノロジーズにより、約90万個の微小液滴から拮抗細菌を探索する研究成果が発表されました。
研究の結果、クルマエビの飼育水から18株の拮抗細菌候補を単離(特定の細胞を取り出すこと)することに成功。微小液滴を利用した拮抗細菌のスクリーニングを水産病原細菌に適用した、初めての報告とされています。
研究成果は国際学術誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されています(論文タイトル:Microdroplet-based high-throughput screening for antagonistic bacteria targeting penaeid shrimp pathogenic Vibrio harveyi)。
微小液滴を「培養容器」として活用
研究では、クルマエビ類の重要な病原細菌である「Vibrio harveyi」を対象としました。
病原細菌に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させ、蛍光を目印として増殖状態を判定できるようにしたうえで、飼育水に含まれる細菌と直径約30マイクロメートルの微小液滴内で共培養しました。
病原細菌の増殖を抑える細菌が同じ液滴に存在すると、病原細菌の増殖が抑えられて蛍光が弱くなる仕組みです。
研究グループは、この蛍光の変化を利用して、拮抗細菌が含まれる可能性の高い液滴を選別しました。
液滴の計測と分取には、オンチップ・バイオテクノロジーズの微小液滴分取装置「On-chip Droplet Selector」が使用されました。約90万個の液滴を1個ずつ計測し、蛍光が弱い液滴を自動的に分取しています。
約90万個を解析し18株を単離
今回計測された液滴は899,823個で、そのうち253個を選別。その後、再培養と保存が可能となった18株について、16S rRNA遺伝子配列を用いて分類したところ、15株がPseudoalteromonas属、2株がTenacibaculum属、1株がShewanella属に分類されました。
細菌叢解析により明らかとなった単離細菌の存在割合(提供:株式会社オンチップ・バイオテクノロジーズ)注目されるのは、単離された細菌が飼育水中では非常に少ない割合しか存在していなかった点。
従来の寒天培地を用いた培養法では、生育の速い細菌に埋もれるなどして見つけにくかった希少な細菌についても、微小液滴を利用することで探索対象にできる可能性が示されました。
さらに、単離された18株の一部についてクルマエビを用いた感染試験を実施した結果、Vibrio harveyiによる感染症に対して生存率が向上する傾向が確認されました。
一方、寒天培地上で病原細菌との増殖阻害を調べた試験では明瞭な阻害が確認されなかったことから、単純な抗菌物質の分泌とは異なる作用機序の可能性も示唆されています。
薬剤に依存しない養殖技術への応用に期待
養殖において、薬剤の使用に伴う耐性菌や環境への影響が課題となるなか、病原細菌の増殖を抑える微生物を活用する「水産用プロバイオティクス」への関心も高まっています。
今後は、単離された細菌の感染防除効果や安全性について、より詳細な検証が進められる見通しです。
また、対象となる養殖場や病原細菌に応じて、環境中から適した拮抗細菌を探索する手法としての応用も考えられます。
再培養率の向上など技術面での課題を解決することで、クルマエビ以外の魚類や貝類、異なる病原細菌を対象とした探索への展開も期待されています。
(サカナト編集部)