日本に生息するブリ属の魚は、ブリ・ヒラマサ・カンパチ・ヒレナガカンパチの4種です。いずれも重要食用魚でありますが、「見分け方がよくわからない」という方も多いかと思われます。
今回はブリ属4種の見分け方と、ブリ属に近縁な魚の見分け方をご紹介します。
ブリ属とは
ブリ属は、スズキ目アジ科の属です。マアジなどとは別の亜科となり、体側にある稜鱗(ぜんご、ぜいご)がなく、体側には黄色い縦帯があります。
大型種が多く、日本に生息するブリ属魚類はいずれも重要産業種です。しかしながら4種は互いに似ており、特にブリとヒラマサ、カンパチとヒレナガカンパチは互いに極めてよく似ています。
ブリ Seriola quinqueradiata
まずはブリ。この魚はブリ属の中でももっとも日本人になじみの深い魚といえるものです。北海道から鹿児島県までほぼすべての沿岸に分布しています(沖縄ではまれ)。
海外では朝鮮半島、ロシア東岸に見られるのみで、アジアの大陸棚に生息する種です。
体長1mほどになる大型魚ですが、それでもヒラマサやカンパチの大型個体よりは小さいと言えるでしょう。ブリは美味しい魚であり、さまざまな料理で賞味されています。
ブリの特徴はまず眼がやや下方にあること(吻端を通る体軸よりも眼が下のほうにある)、眼を通る斜め帯の模様がないことです(「ブリの同定ポイント図」の1)。
これによりカンパチとは容易に識別できます。
ヒラマサとは上顎後端が角ばっていることで見分けることができます(図の2および上写真)。
また、胸鰭と腹鰭が同じくらいの長さであることでも見分けることができます(ヒラマサでは胸鰭は腹鰭より短い/図の3)。
黄色帯は細く、ヒラマサほど明瞭ではないことが多いです。
産卵期は冬~春で、春~初夏に流れ藻について泳ぐ稚魚(もじゃこ)を採集し、これをブリ養殖の種苗とします。
もじゃこの体側には黒色の横帯が出ていますが、これは成長すると薄くなり、やがては消えてしまいます。
ヒラマサ Seriola aureovittata
従来は(局所的ではあるものの)世界の温帯海域に生息するとされたヒラマサではありますが、近年は3種に分けられています。
日本産のヒラマサの学名も“Seriola lalandi”から変更されており、昔使われていた”Seriola aureovittata”という学名が復活しています。ヒラマサの分布域は北海道から九州までの各地沿岸、瀬戸内海、伊豆〜小笠原諸島、屋久島。海外では朝鮮半島、ピーター大帝湾、山東半島に分布していて東アジア特産種といえます。
一方、“Seriola dorsalis“は北東太平洋(アメリカ西海岸)、”Seriola lalandi“はアルゼンチン、ブラジル、チリ、トリスタンダクーニャ、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど南半球に分布します。
食用になり「ブリ属の中でも最もうまい」という人もいます(筆者も)。ただし本種はシガテラ毒をもつこともあり、大型個体は注意が必要です。
Seriola lalandiは全長193cmにもなるとされます。なお、『沖縄さかな図鑑』においては本種が沖縄に分布することは示されていないものの、極めて稀ながら沖縄県からの記録もあるようです。
眼がやや下にあり、眼を通る帯もなくブリによく似ていること(「ヒラマサの同定ポイント図」の1)、ヒラマサでは上顎後端がまるいこと(ブリでは角ばる/図の2)、普通、胸鰭は腹鰭より短いこと(ブリではほぼ同長/図の3)により見分けられます。なお、上顎の特徴はブリの項をご参照ください。
また体側の黄色縦帯はヒラマサの方が明瞭で太く出ています。この黄色縦帯と胸鰭の位置関係で、黄色縦帯と胸鰭の間に隙間ができるのがブリ、隙間がないのがヒラマサともされますが、ブリでも隙間がないこともあり、注意が必要です。
ブリとヒラマサの自然交雑個体について
近年は山口県北部の日本海沿岸においてブリとヒラマサの中間的な個体が漁獲されるようになり、mtDNAを用いた雑種判別を行ったところ、中間的な特徴を示した31個体中28個体が交雑による「雑種」、その28個体中25個体がF1、3個体がヒラマサ方向への戻し交雑であることが判明したというデータもあります(Takahashi et al. 2021)。
現在は雑種形成が進行中とされていますが、これについては「親となっている種のどちらかが急速な分布の変化を示した」という仮説がたてられており(Takahashi et al. 2021)、日本海の海水温上昇によりブリの分布域の拡大という気候変動による影響や、ブリのバイオマスの急速な増大が示唆されます。そして雑種F1個体が少なくとも部分的に繁殖能力があるとも示唆されており、今後も調査が必要です。
なお、「雑種が少なくとも部分的に繁殖能力があることも示唆」されているということは、現在行われているブリとヒラマサの人為的な交雑個体(通称ブリヒラ)が海面養殖されていることが気にかかるところです。故意による放流は論外ですが、嵐などで交雑個体が逸脱しないよう細心の注意をはらう必要があります。