ムサシトミヨという魚をご存じですか?
実はこの魚、世界で埼玉・熊谷市にしか生息しない貴重な魚です。
この記事では、ムサシトミヨの生態や保全活動について紹介していきます。
湧き水を好むムサシトミヨ
ムサシトミヨはトゲウオ目トゲウオ科トミヨ属に属する、体長3.5~6.0センチほどの小さな淡水魚。日本産トミヨ属のなかでは体高が高いことが特徴です。
ムサシトミヨは、綺麗で冷たい湧き水があり、隠れ家となる水草が茂る流れの緩やかな水域を好んで生息しています。
背びれに8~9本、また腹びれ、尻びれにトゲを持っており、身を守るために使います。このトゲは鱗板(りんばん)と呼ばれ、ウロコが変化してできたものです。寿命は1年と短く、産卵期になると婚姻色で体色が少し黒ずむことがあります。
トミヨ属の魚は「巣をつくる」という特徴があります。4~6月の産卵期になると、オスが水草類を集めて、3センチほどの球状の巣をつくります。
巣をつくったオスはそこを縄張りとして成熟したメスを誘い、メスは巣に産卵します。卵は10日前後でふ化し、稚魚は一週間ほど巣に留まったあと巣立ちます。
生息地の埋め立てや湧水の枯渇で生息数が激減
この魚はもともと、埼玉県だけでなく、東京都や千葉県、群馬県、茨城県など関東全域に生息していました。しかし、生息地の埋め立てや湧き水の枯渇、生活排水の河川への流入などにより生息数が急激に減少した結果、現在生息が確認されているのは埼玉県熊谷市の元荒川源流域のみとなっています。
この生息地は、上流にある水産試験場と流域の養鱒場が地下水をくみ上げていたことから、「奇跡的に残った場所」(松沢陽士(2001)、ポケット図鑑 日本の淡水魚258、文一総合出版)なのだそう。豊富に出ていた湧水は枯れてしまいましたが、上記の理由で地下水が放流されたためムサシトミヨが生息できる環境になったといいます。
埼玉県で行われている保護活動
ムサシトミヨが生息できる環境が唯一埼玉県に残ったことから、平成3年には埼玉県が県の天然記念物および「県の魚」に指定しました。
熊谷市にある熊谷市ムサシトミヨ保護センターでは、さいたま水族館の職員によってムサシトミヨの飼育・繁殖・保護が行われています。
同施設は常時開放していませんが、夏休みや県民の日にムサシトミヨや自然保護について学ぶ学習会やイベントを開催しています。施設内にはムサシトミヨを観察できる大型の水槽があるそうです。
そして、ムサシトミヨ保護センター内にある元荒川の源流部から下流へ約400mの区間が「元荒川ムサシトミヨ生息地」として、埼玉県の天然記念物に指定されています。この区域では、周辺家庭からの生活排水が流入しないよう配慮されているそうです。
平成2年に発足したムサシトミヨ保全推進協議会は、現在も生育環境を保全するための活動やムサシトミヨについて知ってもらうイベントを開催。地域住民にムサシトミヨを知ってもらい、河川の環境への関心を高めることで環境意識の向上、ムサシトミヨの生息環境の保護に繋げています。
生息数が少ないムサシトミヨ
ムサシトミヨは生息域が限られていることから、自然下で出会うことはとても難しい魚です。しかし、さいたま水族館やしながわ水族館、琵琶湖博物館等で展示されているので、機会があればぜひ観察してみてください。
(サカナト編集部)