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人類史における水族館の歴史を紐解く 自然と人との意外な関わりとは?

水族館は一般的に博物館の一種であると見なされ、環境教育や研究・娯楽の場であるとされています。しかしそれらはあくまで現在における水族館の解釈です。

それでは、かつて水族館とはどのような施設だったのでしょうか。そもそもどのようにして誕生したのでしょうか。

本記事では主にヨーロッパにおけるヒトと水族の関係から繋がる水族館の誕生の歴史を紐解いていきます。

古代において水の生き物(水族)は<異界の存在>

古代において水の生き物(水族)は水の中という「異界」に隠れた得体の知れぬ存在でした。水界という世界は時には人々に恵みをもたらし、時には災害など破壊的な性質をもたらすこともありました。

エジプト神殿の壁画(提供:PhotoAC)

そうした水族は人々の間で神聖化され、古代メソポタミアではオアンネスという魚の身体に人間の頭をした生きものが人々に文明をもたらしたとされています。

ヒトが自然を支配する

しかし人口が増えて都市化する「文明化」が起こると、やがてこうした自然をコントロールしようとする動きが始まります。古代の富裕層たちは養殖池を作り、そこで水族の観賞を始めました。異界の存在を支配しているという権力の誇示になったのです。

古代ギリシアの哲学者アリストテレスは水族を研究し、様々な形態や生体について細かく記すと同時に、彼は自然界がすべて人間のためにあると考えました。旧約聖書の冒頭「創世記」にも「神に代わって全ての生きものをヒトに支配させる」といった記述が出てきます。

ヨーロッパにキリスト教が広まった後もこの考えは定着し、徐々にアリストテレスの研究のような「博物学」が受け入れられ、人々の間で水族たちの標本の収集やそれらの陳列が流行り始めました。彼らは次第に水族たちを生きたまま、またどの角度からも観察できるガラス容器に入れ、それらを長期的に生かして保管する方法(飼育)を模索し始めたのです。

Aquariumの誕生、そして世界初の水族館へ

こうした「自然支配(=飼育)」の需要に応えるため、水族の様々な研究が行われていきました。化学技師ウォリントンと博物学的知識を持つフィリップ・ゴスは魚を持続的に飼う技術を研究し、ゴスはそのシステムを「Aquarium」と名付けました(諸説あります)。

また、ゴスはイギリスのロンドン動物園内に出来たフィッシュハウスという施設の立ち上げにも参加しました。魚類58種、無脊椎動物約200種をガラス水槽によって様々な角度から観察できる。まさにこの施設こそ、世界初の水族館といっていいでしょう。

水族館の大水槽(提供:PhotoAC)

ロンドン動物園自体もイギリスの権力誇示や、各地の動物を連れてくることによる植民地支配のアピールなどに使われていました。当然その中に作られた水族館も、人間による水界の支配をアピールしていたのです。

その後フィッシュハウスよりさらに没入感を高め、水族だけでなく彼らの棲む「異界(水界)」そのものを間近に見ることが出来る没入型展示の水族館が誕生していきます。こうして徐々に今日の水族館の原型が出来上がっていったのです。

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みのり

みのり

センス・オブ・ワンダーを大切に

北里大学海洋生命科学部卒・元水族館飼育員。魚類・クラゲはもちろん、イルカの飼育も担当。非常に多趣味で、生き物観察やフィールドワークはもちろん、映画や読書、ゲームも好き。多趣味ゆえの独自の視点、飼育員視点を交えつつ、水生生物やそれを取り巻く自然環境、文化、水族館の魅力を発信していきます。

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