学名が変わることも
世界共通の名称であり、安定しているべき魚の学名ですが、実際は結構変わったり、研究者により使われる学名が異なっていたりするのは困ったところといえます。
特に多いのは属が変更となり属学名が変更となるケースです。例えば、マハタなどはかつてEpinephelus属に含まれていましたが、そこからHyporthodus属に移されました。そのため学名はEpinephelus septemfasciatusから、Hyporthdus septemfasciatusに変更になっています。
学名には先取権というルールが存在し、またひとつの種に与えられる学名はひとつでなければなりません。同じ種に後からつけられた学名は、ジュニアシノニム(新参同物異名)となり有効でない名称となってしまいます。
ヒメジ科のヒメジはかつて「ファウナ・ヤポニカ」でおなじみのテンミンクとシュレーゲルによるUpeneus bensasiという学名がながらく使われていました。
しかし1993年にはアメリカ ビショップ博物館のランドールらにより、1782年にオランダのホッタインが記載したUpeneus japonicusという学名がUpeneus bensasiのシニアシノニム(古参同物異名)とされ、以降ヒメジの学名はUpeneus japonicusとされています。
ほかの動物と同じ学名を使うのはダメ
またほかの動物のものと同じ学名を使うこともできません。例えばキビレフエダイという魚は香港から新属新種としてTangia carnolabrumという学名で報告されましたが、のちにTangiaなる属学名はすでに昆虫の属学名で使用されていたために、属学名が変更され、Lipocheilus carnolabrumという学名になりました。
そして、属名・種名の同じ組み合わせを複数の異なる種で使用することもできません。
例えばチョウチョウウオ科のテンツキチョウチョウウオ属Parachaetodonに含まれる唯一の種、テンツキチョウチョウウオの学名はParachaetodon ocellatusとなっています。1831年にキュヴィエにより記載されたものですが、当初はPlatax ocellatus、すなわち、ツバメウオ属の一種とされていたものがのちにテンツキチョウチョウウオ属とされました。
しかしながら近年この種をチョウチョウウオ属に含められる可能性があるとされ、その場合はChaetodon ocellatusになる、と思いきやこの属と種の組み合わせはすでに大西洋産のチョウチョウウオの学名として使用されているので、テンツキチョウチョウウオには使えません。
その場合ブリーカーにより1850年に記載されたものの、のちにテンツキチョウチョウウオの異名とされ消えたChaetodon oligacanthusが復活し、テンツキチョウチョウウオの学名となるようです。