ツメタガイは砂地の浅瀬に生息する、まるでカタツムリを大きくしたような貝殻を持つ巻き貝です。
子どもの頃、若狭湾へ遊びに行った時、思いがけず出会ってしまったこの貝。それと、アクセサリのパーツ用として拾っていた、穴の開いた二枚貝の殻が実は繋がっていて驚いたというお話です。
激しい波に押し戻されながら掴んだのは「大きな巻き貝」
小学生の頃、両親と若狭湾へ海水浴に行きました。愛知県に住んでいたわたしは、それまで日本海を見たことがなく、太平洋と日本海で違いはあるのだろうかとワクワクした記憶があります。
その日はとても良い天気だったこともあり、到着した海水浴場は大賑わい。海の水は透明度が高く、わたしは父と2人で張り切って波打ち際へ行きました。
ただ、その日は思っていた以上に波が荒く、海に入った途端にわたしは、ごろんごろんと砂浜へ押し戻されてしまい、父と知らないおじさんに助けてもらったほどでした。
実はその瞬間、無意識のうちにわたしは右手で何かを掴んでいました。ホッとして我に返り、掴んだものを見た瞬間驚きました。それは大きな巻き貝。しかも生きています。
この貝は何!?
ただ、どこかで見たことがあるなとも思い、自宅で改めて図鑑を見たところ、ツメタガイだったことが分かりました。
ツメタガイとはどんな貝?
ツメタガイはタマガイ科の巻貝で、殻長7センチほどの大きな貝。茶褐色でつるっとしたその貝殻は、まるでカタツムリを大きくしたような見た目です。
潮間帯から水深30メートルくらいまでの砂底に生息し、河口干潟から外洋まで広く生息しています(髙重 博・武井 哲史[2019]、日本の貝、誠文堂新光社)。昼間は砂の中に潜ってじっとしていて、夜間に活動します。
ツメタガイの仲間は、日本では中新世中期に最初に現れ、化石も残っています。貝塚からもツメタガイの貝殻が多く出土しています。
現在、日本には4種類のツメタガイの仲間が生息しています。特にツメタガイの殻は個体による変異が大きく、外洋に生息する個体をホソヤツメタガイと呼ぶこともあります(間嶋隆一[1987]日本産ツメタガイ類(腹足網:タマガイ科)の分類)。
今でもツメタガイは地方によって食用とされています。全く知らなかったのですが、わたしが生まれ育った愛知県でも「うんね」と呼ばれて食用とされてきたそうです。身には独特な臭いがあり、下処理をしてから料理に使うといいます(愛知学泉短期大学 食物栄養学科 愛知県水産試験場 企画普及グループ ツメタガイ[うんね]レシピ集 / 愛知県 干潟のごちそう[ツメタガイ食べ方詳細版])。
ちなみに、元々有明海などごく一部にのみ生息し、近年輸入アサリに混入して生息域以外にも数を増やし、アサリに被害をもたらして話題になったサキグロタマツメタは同じタマガイ科ですが、ツメタガイとは属が違います。
ツメタガイは二枚貝の殻にきれいな穴を開けて食べてしまう
ツメタガイを初めとするタマガイ科の貝は、広い足を大きく広げ、アサリなど生きた二枚貝に足で包み込むように襲いかかります。そして、細い口(吻)の先にある、穿孔盤という器官から酸を分泌して貝殻を溶かし、そこへヤスリのような細かい歯がたくさん並んだ歯舌という器官で殻を削ります。
これを繰り返して殻に穴を開け、穴から差し込んだ口で、吸うように中身を食べます(日本貝類学会[2023]、みんなが知りたいシリーズ19 貝の疑問50、成山堂書店)。時には大量発生して、アサリを全滅させてしまうことも。アサリの養殖業者にとっては厄介な存在です。
子どもの頃から、砂浜で穴の開いた二枚貝を拾い集め、穴に糸やテグスを通してネックレスなどを作っていました。まるでドリルで開けたような美しい穴で、その直径もちょうど良いサイズ。だいたい決まって貝殻の上部に穴が開いていたので、丸カンを通せばイヤリングにも出来るし、とても重宝していました。
その穴がツメタガイによるものだと知った時はとても驚きました。こんなに正確に円形の穴を開けることが出来るとは。生き物のことを知れば知るほど、時に驚嘆する瞬間が訪れますが、ツメタガイが開ける穴も自分にとってはそのひとつでした。
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