キヘリモンガラ Pseudobalistes flavimarginatus
キヘリモンガラの卵は岩に産み付けられ、親はその卵を保護する習性があります。卵に危険が迫ると親はダイバーにも向かっていきます。そのため卵の状態で分散されるということはほとんどないのですが、このキヘリモンガラは幼魚が流れ藻など浮遊物につくことがあり、本州中部沿岸でもその姿を見ることができ、北海道近海でも小樽で採集例があります。
ほか、北海道で見られるモンガラカワハギ科魚類としては、アミモンガラとメガネハギがいますが、とくに前者は流れ藻についているところがよく見られ、流れ藻とともに北日本にもやってきます。
しかしながら冬の寒さには耐えられないため、晩秋から冬にかけて浜辺に弱った個体が打ち上げられることも多くあります。
単純に喜ぶべきではない
熱帯性の海水魚が北海道にやってきたら北海道在住のアクアリストは喜んでしまいがちですが、その裏には海流の変化があります。
上記の魚種のうち複数種が北海道臼尻で採集された2023年は、例年ならば房総半島沖で日本周辺から離れる黒潮続流が三陸沖にまで到達したとされており、それによりこれらの魚の多くがもたらされた可能性があります。2023年の臼尻近辺の水温は7月~9月に、この年を除く例年(1970年以降)の平均水温と比較し、3.1~3.3℃高かったとされます。
海水温が例年より極端に上がったり、下がったりすると壊滅的な結果がもたらされることがあります。極端な例をあげるならばアメリカ東海岸の食用魚タイルフィッシュ(アマダイ科の魚)は1882年に大量死がおこり、この魚を獲る漁業は壊滅的な打撃を受け、個体数の回復には長い時間を要しました。この大量死の原因については海水温の極端な変動(低下)が原因とされています。
北海道の主要な漁業対象種についても、真逆でありますが同じようなことがいえ、タイルフィッシュとは逆に高水温に弱い生物も多数おり、地球温暖化の問題ともあわせて、単純に喜べるような事象ではないといえます。
(サカナトライター:椎名まさと)
参考文献
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