カエルウオの仲間は可愛い顔をしているため、アクアリストやダイバーから人気が高い魚です。また磯遊びでもよく見つけられるもので、採集して飼育しようと思っている方も多いと思います。
この記事では、カエルウオの仲間の飼育方法や、その注意点についてご紹介します。
なお、ここでは海水魚の飼育について扱っています。海水魚は真水(淡水)で飼育することはできません。また海水魚飼育の設備は淡水魚とは異なるものが必要になります。詳しくは専門誌などをご参照ください。
また一度飼育した魚は、海や川へ逃がすようなことのないようお願いいたします。
カエルウオの仲間たち
カエルウオの仲間は分類学的には「カエルウオ属」といいます。スズキ目・ギンポ亜目・イソギンポ科・カエルウオ属の魚たちです。
亜目の標準和名も「ギンポ亜目」で、カエルウオ族の種標準和名にも「~ギンポ」とついているものも多いですが、天ぷらの原料になる「ギンポ」とは全く関係のない魚であることに注意が必要です。
カエルウオの仲間は可愛い顔をしたものも多く、ダイバーに人気があるものですが、アクアリストにも人気があります。
可愛い顔をしているのはもちろんのこと、ヤエヤマギンポやカエルウオ、ニセカエルウオといった種は、水槽のガラス面や壁面についたコケを食べてくれるのです。ただし種類によっては配合飼料に餌付いたらあまりコケを食べなくなる種がいたり、またもともとコケをあまり食べないような種もいます。
カエルウオの仲間を飼育する
カエルウオの仲間を上手く飼育するには、水槽セットなどの飼育用品をそろえる必要があります。そしてそれを正しくセットしなければなりません。
ここでは飼育のために必要な用品を述べているだけですので、詳しくは専門誌などをご参照ください。
水槽
筆者が現在カエルウオの仲間を飼育しているのはオールインワンタイプの水槽です。この水槽は観賞部が10リットルにも満たない小型水槽です。
このような水槽では初心者が海水魚を飼育するのには向いていないところがありますが、小さな水槽でじっくりカエルウオを観察できるというメリットがあります。
初心者には幅60センチ以上の水槽での飼育をおすすめします。これは水量が大きい方が魚の飼育には有利で、水温も安定しやすいからです。
そして水量は大きいほうが、魚の排せつ物や残り餌により水質が悪化するスピードがおそくなります。しかしこれは決して水かえをしなくてもよい、という意味ではありません。
ろ過装置
写真のオールインワンタイプの水槽は、水槽の下にもうひとつの水槽があるオーバーフロー水槽システムと呼ばれるものです。オーバーフロー水槽システムでは水槽の下にあるもうひとつの水槽であるサンプ(水ため)でろ過を行います。このサンプにろ材やウールマットなどを入れてろ過を行います。
オールインワンタイプ以外の水槽で使えるろ過槽は上部ろ過槽・外部ろ過槽・外掛けろ過槽などいろいろありますが、外掛けろ過槽(俗に「ワンタッチフィルター」と呼ばれるもの)は水槽の上部に隙間ができやすいのであまり向いていません。
外部ろ過槽(俗に「パワーフィルター」と呼ばれる)や上部ろ過槽を使う場合も水槽の上部に隙間ができることがありますので、その場合はアクリル板などで隙間埋めをしたいところです。なお、ろ過槽内に入れるろ材はサンゴ砂など、アルカリ性を保つ効果のあるろ材を使用します。
水温
水温は20~28℃で飼育できますが、基本的には25℃を維持するようにします。水温が周年一定になるようにするのが望ましいです。
魚が体調を崩したり病気になるのは概ね水温の変動が大きいときです。水槽用クーラーやヒーターを使用したり、ルームクーラーをかけるなどして工夫しましょう。
また水槽には温度計を設置し、常に魚に適した温度になっているかチェックします。ちなみに我が家の水槽部屋は一年中25℃を維持するようにしています。
水槽の蓋
カエルウオの仲間の飼育においてとくに重要なものです。これがないと数日後にはカエルウオの仲間の干物と対面することになるでしょう。
ガラス・アクリル製といろいろありますが、この水槽セットを購入したときには残念ながらフタはついていませんでしたので、アクリル板を加工して自作しました。60センチ水槽であれば基本的にガラス性のフタがついているはずですので、これに上部ろ過槽を組み合わせればよいでしょう。
筆者がカエルウオの仲間を飼育しているような小型オーバーフロー水槽ではフロー管の上にも透明なアクリル板を置くことにより、カエルウオの仲間がサンプへ落下するのをある程度防ぐことができます。
カエルウオの隠れ家
水槽の中にはライブロックや飾りサンゴなどを多数入れ、カエルウオの仲間の隠れ家を作ってあげましょう。複数のカエルウオの仲間を飼育するのであれば、そのぶん隠れ家も多く必要になります。
穴の多く開いたサンゴ岩やライブロックを購入したり、フジツボの大きいものなどを入手して水槽に入れてもよいでしょう。淡水の流木は水質の変化を招きやすいのでやめましょう。
照明
カエルウオを飼育するときは照明はなんでもよく、基本的には飼育しているサンゴや海藻に合わせたものでかまいません。
ただしあまり強い照明だと水温の上昇を招くことがあるので注意が必要です。とくに小さい水槽は照明による水温の上昇がみられやすいので注意しましょう。
その他必要な小物
そのほかにも水かえの際に水を抜くためのホース、人工海水を作るためのバケツ、人工海水のもと、塩分濃度をはかる比重計、ガラス面を掃除するためのスクレイパー、水から塩素を抜くためのカルキ抜きなどが必要になります。
飼育しているカエルウオは何を食べる?
カエルウオの仲間には植物食性の魚向けの配合飼料を与えます。基本的にはフレークの餌は食べにくく、粒状の餌が向いています。
筆者が与えている餌は海藻の類やスピルリナを強化配合した餌で、これを水に浸し、形が少し崩れるようになってから与えます。
このような与え方は水を汚すおそれがありますが、それはしっかりと生物ろ過をきかせることや定期的な水かえでカバーします。
また、ひとつの水槽にあまり多くのカエルウオを入れすぎないことも重要です。魚の数が多いと、排せつ物の量も比例して多くなるため、水が汚れやすくなります。
採集したカエルウオを飼育する
カエルウオの仲間は磯でも容易に採集できます。伊豆諸島を除いた関東近辺では種標準和名カエルウオと、白っぽい斑点が特徴のホシギンポが多く見られますが、これら以外のカエルウオの仲間はまれなものです。
紀伊半島や四国の太平洋岸、日向灘、鹿児島県南部の沿岸、琉球列島ではほかにもタネギンポ、シマギンポ、ロウソクギンポ、ニセカエルウオ、カエルウオモドキなど個性豊かなカエルウオの仲間を採集することができます。
サイズは全長で3~6センチほどのものがよいでしょう。これより小さいものはかわいらしいのですが、やせやすいですし他の魚から捕食される危険も多いのです。
また、関東の磯では全長10センチを超える巨大なカエルウオを見ることもありますが、これほど大きいのは自然のコケなどを食べることになれており、配合飼料になかなか餌付かず、短命に終わってしまうこともあります。
そのため上記のような、小さすぎず大きすぎずという個体が飼育には最適といえるのです。また、その気になればたくさん獲れますが、欲張らないで数匹を持ち帰り大切に飼うほうがカエルウオの仲間にとっても一番いい方法です。
言うまでもないですが、飼育したカエルウオは最後までしっかり飼育し、飽きたからといって海に逃がすことのないようにしましょう。
カエルウオの仲間とほかの魚・サンゴとの関係
カエルウオの仲間はほかの魚とも、カエルウオの仲間同士でも飼育できます。
またサンゴ水槽での飼育が可能な種も多いです。
他の魚との飼育
カエルウオの仲間とほかの魚との飼育では、基本的に温和な魚であれば、多くの魚と一緒に飼うことができます。ハゼの仲間、ハナダイの仲間、小型ヤッコ(キンチャクダイ)の仲間などと相性がよいです。
これらの魚と組み合わせるならば近い大きさのものと組み合わせるとよいでしょう。たとえば小型のハゼと飼うのであればやはり小型のテールスポットブレニーやイシガキカエルウオなど、小型ヤッコと組み合わせるならばある程度の大きさになるヤエヤマギンポやニセカエルウオなどと組み合わせる、といった具合です。
なお、カエルウオの仲間は細くて他の魚に食べられてしまいやすいので、肉食性のハタやバスレット、大きなテンジクダイとの混泳は危険です。
カエルウオの仲間同士の飼育
小型水槽でカエルウオの仲間を複数組み合わせる場合は隠れ家を多くいれ、それぞれのカエルウオが身を隠すことができるような環境を整えてあげたいものです。
ただしカエルウオのように気が強いものもいれば、センカエルウオのようにある程度大きく育つ種であっても繊細なものもいます。90センチくらいの大型水槽であれば、より多くの種のカエルウオを組み合わせることができます。
ただその際にも繊細な種と気が強い種とは組み合わせないほうが無難です。
雌雄を見分ける
カエルウオの仲間は同種同士、とくに雄同士で争うものもいます。その場合は雄1匹と雌1匹、もしくは雄1匹と雌複数匹で飼うなどの工夫が必要です。
カエルウオの仲間には雌雄の区別がつきにくいものも多いのですが、カエルウオやタネギンポといった種はとくに雄の正中線に半円形の皮弁(正中線皮弁)があることにより見分けることができます。
またホホグロギンポなどのように上述の特徴のほか、雌雄で色彩が大きく異なっているので見分けることができます。
ただしヤエヤマギンポのように雌雄ともに正中線がなく、雌雄ともに色彩に違いがない種もいますので、注意が必要です。
サンゴ水槽での飼育
サンゴ水槽でカエルウオの仲間を飼育することもできますが、カエルウオの仲間のあるものはサンゴを捕食してしまうこともあります。
とくにセダカギンポ、タテガミカエルウオといった種類はサンゴのポリプや表皮などを食べることもあり、サンゴとの飼育はすすめられません。そしてこれらの種はそもそも飼育難易度も高いのです。
しかしながら、アクアリウムの世界ではそこそこメジャーなカエルウオともいえるヒトスジギンポなどの種はサンゴの骨格を被う共肉などを貪り食うような個体もいますので、注意します。
またカエルウオの仲間はサンゴやイソギンチャクの上で休息することもあります。そしてイソギンチャクの上で休息しようとすると、イソギンチャクの毒の刺胞にやられてしまいます。
クマノミとイソギンチャクがいるところにカエルウオを入れるのはやめたほうがよいでしょう。なお、マメスナギンチャクやグリーンボタンなどはイソギンチャクの仲間ですが、これらとの飼育は問題ありません。ただディスクコーラルと呼ばれるものの一部は、カエルウオを食べてしまうこともあるようです。
一方、カエルウオの仲間は藻類を食べるため、海藻水槽では飼育できないという人もいますが、実際には海藻水槽でも飼育することができます。その場合、海藻に付着した藻類を少し食べてくれます。
カエルウオの仲間の飼育を楽しむ
今回はカエルウオの仲間の飼育方法をご紹介しました。カエルウオの仲間は地味ですが愛嬌がある種が多く、きっとアクアリストを楽しませてくれるはずです。
餌をしっかりあたえてフタもしっかりし、混泳相手に気を付ければ、丈夫なカエルウオの仲間は長く水槽で楽しむことができるでしょう。
(サカナトライター:椎名まさと)