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琉球列島で見られる美しい赤色の魚たち<まち類>の見分け方 沖縄では高級魚?

琉球列島のサンゴ礁にはカラフルな魚が数多く見られますが、それよりも深い水深200メートルくらいの場所にも美しい魚が生息しています。それが「まち類」です。

そのなかでもハマダイ属の魚はどの種も赤色やオレンジ色の色彩をしており、非常に美しい魚たちです。そして食用として人気があり、魚市場ではよく見られる魚です 。

今回はそんな赤いまち類、ハマダイ属の魚をご紹介します。なお、ここでは魚や分類群の名称について、標準和名はカタカナ、それ以外の地方名についてはひらがなで表記します。

赤い「まち類」ことハマダイ属とは

八重山漁協。右3つのハコがハマダイ属(提供:椎名まさと)

「まち類」というのは沖縄の高級魚。主に琉球列島の沖合、水深100メートル以深に生息しているフエダイ類の総称です。

茶色いヒメダイオオヒメオオグチイシチビキのほか、カラフルなハナフエダイシマチビキキマダラヒメダイなどいろいろいますが、もっともよく知られているのは「あかまち」ことハマダイでしょう。赤色が美しく、大きくなり味もよいので人気があり、市場ではよく見られる魚です。

ハマダイ属の同定

この項では、ハマダイ属の同定のポイントを写真と共に解説していきます。

ハマダイ Etelis coruscanus Valenciennes,1862

ハマダイ(提供:椎名まさと)

ハマダイはインド~中央太平洋の温暖な海域(東アフリカからハワイ・マルケサス諸島)に分布し、日本においては伊豆諸島・小笠原諸島・琉球列島近海に多く見られます。生息水深は100~400メートルほどの場所で見られます。

ハマダイ成魚の尾鰭(提供:椎名まさと)

英語名はフィリピンの「Fishbase」では Deepwater longtail red snapper という名前が一般に使われるほか、Flame snapper、Longtail snapper などと呼ばれています。日本国内の地方名は沖縄の地方名「あかまち」が有名ですが、「おなが」(東京、江ノ島)、「あかちびき」(田辺)、「へえじ」(高知)などと呼ばれることもあります。

ハマダイの写真(撮影:椎名まさと)

ハマダイの写真(提供:椎名まさと)

また、ハワイでも「Onaga」で通じます。古い本では学名を Etelis carbunculus としていることもありますが、これは現在ハチジョウアカムツの学名です。

ハマダイの頭部(提供:椎名まさと)

ハマダイの頭部(提供:椎名まさと)

ハマダイは尾鰭下葉先端が白くならず、成魚は尾鰭両葉が長く伸び尾鰭の形状が「三日月」状になること、口がやや小さく主上顎骨後端は眼中央下かそれよりも前方にあること(上写真)などにより他のハマダイ属魚類と見分けることができます。また身は少し赤みがあるものの真っ赤、というものではないように思います。

オオクチハマダイ Etelis radiosus Anderson, 1981

オオクチハマダイ(提供:椎名まさと)

オオクチハマダイはよく「オオグチハマダイ」と表記されることもありますが、これは誤りです。この後紹介するオオグチイシチビキと間違えられたのかもしれません。全長70センチを超える種です。記載されたのは比較的新しく、1981年にスリランカ産の個体をもとに新種記載。

オオクチハマダイの刺身。ハマダイと違い身が赤い(撮影:椎名まさと)

沖縄においてはハマダイと同じように漁獲されていますが、身質はよくなく、色も赤いためハマダイ属としては市場価値が低いともされています。しかし刺身は美味しいものでした。分布域は伊豆諸島、鹿児島県以南、琉球列島、インド~太平洋(スリランカからサモア諸島)の熱帯域に見られますが、ハワイ諸島には分布していないようです。

ハマダイよりオオクチハマダイのほうが口が大きい(提供:椎名まさと)

オオクチハマダイの特徴は口の大きさで、主上顎骨後端は通常、眼の中央下か、それよりも後方になります。これが標準和名の由来となります。また、先述のように赤色の身も同定に使えるのかもしれません。

ハチジョウアカムツ Etelis carbunculus Cuvier,1828

ハチジョウアカムツ(提供:椎名まさと)

ハチジョウアカムツは標準和名に「ハチジョウ」とあるように、八丈島、豆南諸島、小笠原諸島、琉球列島に見られ、海外ではインド~太平洋の熱帯海域に広くすみ(タイプ産地はセイシェル)、ハワイ諸島にも分布しています。

なお、標準和名に「アカムツ」とついていますが、ホタルジャコ科のアカムツとは縁が遠い魚です。従来は全長1メートルを超えるとされましたが、2021年以前の文献ではオオアカムツも含まれているため混同されているものと思われ、実際はやや小型種とのことです。なお古い本では学名を Etelis marshi としていることもあります。

ハチジョウアカムツの刺身(撮影:椎名まさと)

琉球列島では重要な食用魚の一種でしばしば水揚げされていますが、従来は混同されていたオオアカムツに比べて市場価値は落ちるとも言われています(それでもお値段はそこそこする)。

ハチジョウアカムツの尾鰭(提供:椎名まさと)

ハチジョウアカムツの尾鰭は全体が赤く、下葉の先端と縁辺のみ白色です(上図の黒い矢印)。また尾鰭上葉先端には黒色の色素がないことで本種と混同されてきたオオアカムツと見分けられます(同、緑色の矢印)

ハチジョウアカムツの主鰓蓋骨棘後端は尖る(提供:椎名まさと)

また、ハチジョウアカムツは、主鰓蓋骨棘後端が尖ることでも見分けられます(オオアカムツでは丸い)。ハマダイおよびオオクチハマダイとは尾鰭の下葉先端付近が白くなることで見分けられるほか、体長は尾鰭上葉長の3.3倍以上(ハマダイなどは3.1倍以下)であることでも見分けられます。

オオアカムツ Etelis boweni Andrews, Fernandez-Silva, Randall and Ho, 2021

オオアカムツ(提供:椎名まさと)

2021年に新種記載され、その後2023年に標準和名がつけられた種です。しかしながらその存在自体は記載される前から琉球列島の市場関係者には知られており「沖縄さかな図鑑」では種の標準和名はつけられていなかったものの「ハマダイ属の1種」として掲載されていました。

オオアカムツの刺身(提供:椎名まさと)

ハチジョウアカムツよりも高値で取引されるといいます。その理由としては太っていて脂もよく乗っていること(身の色も美しい色をしている)、ハチジョウアカムツよりも大きく成長することがあげられており、その大きさは全長1メートルを超えます。

分布域は紅海(タイプ産地はサウジアラビア)・セイシェル~サモア独立国、トンガ、フィジーに至るインド-太平洋に至り、日本においては琉球列島以南に見られますが、小笠原諸島やハワイ諸島には生息していないようです(少なくとも標本がない)。

オオアカムツの尾鰭の色彩(提供:椎名まさと)

オオアカムツの特徴は尾鰭にあります。尾鰭の上葉先端は黒くなり、ハチジョウアカムツと見分けることができます(上図の黒い矢印)。一方、下葉はハチジョウアカムツ同様先端が白いことで、ハマダイなどと見分けられます(同、紫矢印)。また。ここでは示すことはできませんでしたが、主鰓蓋骨棘後端はハチジョウアカムツと比べて丸みをおびています。

なお世界のハマダイ属魚類は上記の4種のほか、西大西洋に Etelis oculatus (Valenciennes, 1828)という種も知られていますが、このほか南アフリカ産のハマダイ属などのように未記載種、または再記載されるべきものが含まれています。

ハマダイ属と間違えられやすい魚

オオグチイシチビキ Aphareus rutilans Cuvier, 1830

オオグチイシチビキ(提供:椎名まさと)

種の標準和名がオオクチハマダイとよく似ており紛らわしい魚です。分布域は南アフリカからハワイ諸島に至るインド~太平洋で、日本においては相模湾以南の太平洋岸、伊豆諸島、小笠原諸島、火山列島、沖ノ鳥島、琉球列島などに見られます。

最大で全長1メートル近くにもなり、大型個体は食用魚となります。沖縄では「てんくちゃー」とか、「おおぐちちょーちん」などと呼ばれていますが、市場価値はやや低いとされています。普通は100メートル以深に生息していますが、幼魚は浅海にも見られ、沿岸の定置網にも入網することがあります。

オオグチイシチビキ(上)とオオクチハマダイ(下)の背鰭(提供:椎名まさと)

オオグチイシチビキは色彩は赤いというか、茶褐色というか微妙な色彩であり、英語名は Rusty jobfish(錆色のチビキ)と呼ばれています。

しかしオオグチイシチビキ属とハマダイ属は背鰭で見分けるとよいでしょう。オオグチイシチビキの背鰭には欠刻がない(黒い矢印)ので、背鰭に欠刻がある(青い矢印)オオクチハマダイと見分けられます。また、口も大きく、ハマダイなどとはこれで見分けるとよいでしょう。なお、本種の含まれるイシフエダイ属は2種からなり、もう1種イシフエダイは鰓耙数や色彩などにより本種と見分けることができます。

バケアカムツ Randallichthys filamentosus (Fourmanoir, 1970)

長崎県産バケアカムツ(提供:椎名まさと)

バケアカムツは1973年沖縄県で漁獲された2個体をもとに吉野哲夫・荒賀忠一両氏によって、1975年に Etelis nudimaxillaris、つまりハマダイ属の一種として新種記載されました。「裸の上顎」という種小名が示す通りに、主上顎骨に鱗がないのが特徴です。

しかしながらこの種はすでに1970年、Etelis filamentosus としてニューカレドニア産の個体をもとにフランスのフルマノワによって記載されており、Etelis nudimaxillaris は Etelis filamentosus の新参異名となり消えました。

その後属についても1977年にハマダイ属から本種のみをふくむバケアカムツ属 Randallichthys に移されました。日本においては伊豆諸島、小笠原諸島、琉球列島で見られるほか、一部では水中写真による記録もあるようですが、どこでも数は少ないようです。

バケアカムツの刺身。身はピンク色が美しい(提供:椎名まさと)

食用魚で刺身・煮つけなど極めて美味ですが、なかなか脂がきつかったです。残念ながら数は少なく、筆者も1回しか入手したことはありません。

バケアカムツの主上顎骨(矢印)には鱗がない(提供:椎名まさと)

バケアカムツは先述のように主上顎骨に鱗がないことによりハマダイやハチジョウアカムツなどのハマダイ属魚類とは容易に見分けられます。

ハマダイ属(写真はオオアカムツ)の主上顎骨(矢印、一部破損)には数枚の鱗がある(提供:椎名まさと)

またハマダイ属はふつう腹鰭下部は暗色になりませんが、バケアカムツでは明瞭に暗色になることでハマダイ属と見分けることができます。

ハチビキ Erythrocles schlegelii (Richardson,1846)

長崎県産ハチビキ(提供:椎名まさと)

ハチビキは見た目はハマダイ属魚類によく似ていますが、フエダイ科ではなくハチビキ科という別のグループの魚です。別名はちょーちんまちと呼ばれ、体が赤く口が伸びるからか、鈴なりに釣れてくるからか、という記述が「沖縄さかな図鑑」の中で見られます。

ハチビキの刺身。赤みが強くマグロみたい(提供:椎名まさと)

身はマグロかと思わせるような赤色が目立ちます。そのため鮮度が落ちやすいですが新鮮なものはかなり美味です。本州の太平洋岸から琉球列島に広く分布し、海外でも西太平洋からオーストラリア、ケニア、南アフリカにまで見られ、タイプ産地は日本の長崎とのこと。

ハチビキの主上顎骨はハマダイ(左)と比べると白くて大きく見える(提供:椎名まさと)

ハマダイとは主上顎骨が大きく目立つことや、尾鰭が長く伸びないことなどにより見分けられます。また尾柄部のようすも、隆起線が目立つなどハマダイ属とは大きく違って見えます。

ハマダイ属は高級食用魚

石垣島で水揚げされたオオアカムツ(提供:椎名まさと)

ハマダイ属の4種はいずれも大きく育ち、すべての種が食用として利用されています。漁法は深海釣りまたは深海延縄で、水深100~200メートルくらいの場所から漁獲されています。現在は資源管理と称し、一部海域においての操業の規制や、小型個体の水揚げを受け入れないようにしているといいます。また小型魚は逃がしても死んでしまうため基本的には逃がさず、自家消費されているようです。

琉球列島近海ではハマダイ属は高級魚として扱われています。とくに赤色の体が鮮やかなハマダイが高級魚とされています。琉球列島では赤いタイ科魚類が少ないためか、本種がそのタイにかわるポジションにいるのかもしれません。

沖縄本島では那覇市の牧志公設市場や泊市場いゆまちなどでハマダイ属の魚を購入することができます。ちょっと高いのですが、お土産にみなさんも購入して食してみてはいかがでしょうか。

(サカナトライター:椎名まさと)

文献

ジョン ビョル・大富 潤・本村浩之. 2023. 鹿児島県大隅諸島から得られた北西太平洋初記録のフエダイ科魚類 Etelis boweni オオアカムツ(新称). 魚類学雑誌 DOI: 10.11369/jji.22?018. J?STAGE早期公開版(2023)

益田 一・荒賀忠一・吉野哲夫. 1975. 魚類図鑑 南日本の沿岸魚. 東海大学出版会,東京.379pp.

下瀬 環.2021. 沖縄さかな図鑑.沖縄タイムス社,那覇.208pp.

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椎名まさと

魚類の採集も飼育も食することも大好きな30代。関東地方に居住していますが過去様々な場所に居住。特に好きな魚はウツボ科、カエルウオ族、ハゼ科、スズメダイ科、テンジクダイ科、ナマズ類。研究テーマは魚類耳石と底曳網漁業。

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