秋を迎え各地で様々な漁が解禁される中、北海道南西部に位置する噴火湾ではボタンエビ漁が解禁されました。
噴火湾では主にエビカゴ漁でボタンエビを漁獲しており、漁獲されたボタンエビは寿司や刺身で食べられています。
しかし、近年、このボタンエビの漁獲量が低迷しているようです。
ボタンエビとトヤマエビ
ボタンエビとはタラバエビ科に属する中型のエビで、水深100メートルを超える深い海に生息しています。
一般的にボタンエビと呼ばれるエビには「トヤマエビ」と「ボタンエビ」の2種類がおり、市場や魚屋でよく目にするボタンエビは標準和名「トヤマエビ」の方です。
ややこしいですが、タラバエビ科にはボタンエビとトヤマエビ(別名:ボタンエビ)の2種類が存在するということになります。
しかし、ボタンエビよりもトヤマエビの方が流通量が多い為、ボタンエビといえばトヤマエビを指すことがほとんどなのです。
トヤマエビとボタンエビの見分け方
ボタンエビはトヤマエビによく似るものの、形態的な差異から区別することが可能です。
トヤマエビは胸甲部の背面が著しく隆起し、額棘(がっきょく:突き出した角のような突起)が強く上方に反るに対して、ボタンエビでは胸甲部背面の隆起が弱く、額棘もトヤマエビ程強く上に反らないことが特徴。また、トヤマエビは腹部に横帯があるのに対して、ボタンエビでは横帯が見られないなどの違いもあります。
なお、ボタンエビの名前の由来は体色が「牡丹」に似ることで、トヤマエビの由来は「富山」に因んでいます。
トヤマエビの主産地は北海道
名前に「富山」と付くトヤマエビですが、富山にのみ生息する訳ではなく、北海道及び日本海の深場(水深100~400メートル)に広く分布。
北海道はトヤマエビの一大産地として知られ、本種はボタンエビの他に北海道でオオエビ、トラエビ、ダイエビとも呼ばれています。
先日、漁が解禁された噴火湾では80~100メートルと比較的浅い場所を漁場とし、主にエビカゴ漁でトヤマエビを漁獲。エビカゴ漁で漁獲されたトヤマエビは状態が良く活エビの状態でも流通します。
噴火湾内のエビカゴ漁の漁期は3月、4月の春漁と9月~11月の秋漁に分かれており、周年行われている刺網では混獲される程度だとか。
噴火湾のトヤマエビ
北海道沖に分布するトヤマエビですが、海域により産卵期が若干異なっていることが知られています。
噴火湾では7~9月が産卵期であり、1歳までは冬、夏の2回の脱皮を経て成熟します。その後、2歳となる冬に大部分がメスへと性転換、2歳以降の脱皮回数は1回で、オスは冬、メスは夏に行うようです。
トヤマエビは20センチ前後になるタラバガニ科の中では大型の部類ですが、成長に伴ってオスからメスへ性転換することから、大型個体はメスだといいます。
噴火湾のトヤマエビの漁獲量は増減を繰り返している
トヤマエビの産地のひとつとして挙げられる噴火湾ですが、近年は漁獲量が低迷しているといいます。
噴火湾海域のトヤマエビの漁獲量は1985~1987年は200トン未満だったのが、1990年には787トンまで増加。そこから2006年までは200~400トンを推移しました。しかし、2007年に104トン、2009年には52トンまで減少。
その後、2013年まで150トンを下回る年が続きますが、2014年に150トンを超えます。2015年には9年ぶりとなる200トン超えを記録し、その後、4年間200トンを超える漁獲量を記録しました。
しかし、2019年以降再び漁獲量が減少し、2022年度の漁獲量は1985年以降最低となる24トンを記録。現在、噴火湾のトヤマエビの漁獲量は低迷しています。
漁獲量の減少には小さいエビの減少が考えられており、小エビの生存率を上げるために網目を10節から大きくする案も出ているようです。
我々がよく目にするボタンエビの正式名称がトヤマエビだということはあまり知られていません。また、産地のひとつである噴火湾内の資源量は近年、減少傾向にあることから今後も資源量の調査と適切な管理が望まれています。
(サカナト編集部)
参考
(噴火湾におけるトヤマエビの資源状況と資源管理について―北海道立総合研究機構)