「魚を知る」「自然を感じる」というと、どうしても自然観察や釣り、ダイビングなどアウトドアをしなければならないと思われがちです。
しかし、日本では普段の食卓から自然や四季を感じとることができます。魚料理を通じて四季を感じる、新しい和食の見方をご紹介します。
ユネスコ文化遺産『和食』
2013年12月、和食がユネスコ無形文化遺産に登録されました。四季があり、多様で豊かな自然をもつ日本の料理(=和食)は、これらの自然と共に発達した料理です。
農林水産省のWebサイトに和食の特徴がいくつか挙げられていますが、その中に「多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重」「自然の美しさや季節の移ろいの表現」という項目があります。
四季があり多様な環境をもつ日本だからこそ、多様な食材があり、その食材の数だけ素材の味があります。そうした素材の味を活かす調理技術があるのです。
また、料理に季節の花や葉を添えたり、色味を出すことで自然の美しさや四季の移ろいを表現していることも和食の特徴です。
家庭料理は文化遺産
「和食」というと、外で食べるそばやお寿司、高級料理店の料理などを想像しがちですが、私たちが普段家庭で食べている料理もれっきとした和食です。
家庭の食卓に並ぶ食材も、夏はナスやきゅうり、秋は栗や椎茸など、季節によって変わっていきます。食卓から四季の移ろいを感じられます。
そこで作られる料理も凝ったものでなく、魚に塩をふって焼いただけ、野菜を切ってお味噌汁にしただけでも、それらは素材の味を活かした「和食」になります。私たちは普段何気なく、文化遺産を食しているのです。
五感で味わう和食
コテコテに味をつけた料理も美味しいですが、和食の美味しさというのは、五感が喜ぶ美味しさです。
素材の味を活かした美味しさ、色味よく盛り付けられたお刺身、あつあつに焼かれた塩焼き、出来たてのいい匂い……。
料理研究家の土井善晴さんは、著書『一汁一菜でよいという提案』(新潮社)で「家庭料理は美味しくなくていい」と主張しています。
家庭料理というのは基本的に毎日つくられるもの。土井さんは食卓での会話や小さな料理の変化に気づき、毎日を過ごすうちに心が育まれていくのだと説きます。
「和食」を味わうのに外に出る必要はありません。普段の家庭で食す料理を五感で味わい、料理の小さな変化を経験するだけで、十分に和食を味わうことができるのです
魚料理で季節を感じる
四季の移ろいを感じられ、素材の味を活かしたものが和食です。捌いてそのまま盛り付けるお刺身や塩で焼くだけの塩焼きも、和食の定義に当てはまります。
今回、実際にこれまで紹介した「和食の考え方」に倣って魚料理を作ってみました。
とはいっても、凝ったものではありません。普段読者の皆さんでも作られている程度の簡単な料理です。そんな料理でも、十分に自然を感じることは出来ました。
秋が旬の魚を使う
今回は、秋が旬の秋鮭とカツオを買いました。
鮭は北海道産。そして、秋のカツオは「戻りカツオ」といい、豊富な餌を食べ脂肪がのっているため濃厚で非常に美味です。
秋鮭は塩焼きに
そんな秋鮭は水をふき取り、フライパンで塩焼きにしました。こだわったことは何もしていません。誰でも作れる簡単な和食・魚料理です。
鮭を焼いている際、皮が焼けるパチパチという音が耳に心地よかったです。「和食」を意識してみると、料理で素材が奏でる音はこんなにも美しいのかと気づかされます。
カツオのたたきは薬味と共に
カツオは売られていたままの状態で薬味と共に盛り付けました。
私は素人なので、この盛り付け方が正しいのか、美しいのかわかりません。しかし、カツオの赤身と大葉の緑色、刻みねぎとしょうがを添えてお皿に載せただけでも中々に映えます。
土井善晴さんの言う通り、上手くなくていいんですね。このようなちょっとした盛り付けだけでも、料理から自然を感じられます。
これが家庭の和食のおいしさ
魚料理2品に、ご飯とお味噌汁を添えて完成です。五感で季節や自然を感じることができる、嬉しい和食ができました。
味はいたってシンプルで質素ですが、ここまでの和食の情景を想像しながら食べると、いつも以上においしく感じました。
普段からこうした和食を口にしていたはずですが、旬の食材を使う喜び、五感で感じるおいしさを理解すると、こんなにも変わるのかと驚きました。
この遺産を守るために
近年では、水産物の漁獲量が減少し、同時に水産物の消費量も減少し続けています。
魚が減ってしまうと食卓に並ぶ旬の魚も手に入らなくなり、そもそも魚離れが起こってしまうと上記のような和食のバリエーションも減ってしまいます。
和食はユネスコ無形文化遺産であり、家庭における料理も多くは和食です。持続可能な水産物の利用、日本人の魚離れを防ぐことは、文化財の保護にもつながるのです。
本記事を読まれた皆さんが、普段の食事の見方が少しでも変わり、和食や魚料理の大切さを感じていただけたら幸いです。
(サカナトライター:みのり)