2010年と2011年に筆者が訪れた鹿児島県喜界島の磯には様々な魚が見られました。
水がひいた干潮時、手に網をかまえ、畳半畳ほどもあるような大きな平たい岩をどかすと、テンジクダイ科の魚やタナバタウオ科の魚が驚いて岩の下から飛び出し、網の中に続々と入っていったのでした。
網に入った魚を掴んでバケツに移している途中、私の手に激痛が走りました。見ると小さなずんぐりむっくりした魚、グアムカサゴが入っていたのです。
サンゴ礁域の浅瀬では、イソカサゴなどあまり言及されない有毒生物にも気をつける必要があります。
比較的小型なカサゴの仲間<グアムカサゴ>
グアムカサゴScorpaenodes guamensis(Quoy and Gaimard.1824)はスズキ目・フサカサゴ科・イソカサゴ属に含まれる魚で、サンゴ礁の浅瀬、タイドプールに見られる小型種です。
学名も、比「Fishbase」によるコモンネームGuam scorpionfishも、そしてもちろん標準和名もグアム産の個体をもとに新種記載されたことにちなみます。
ただし、実際には東アフリカからソシエテ諸島までのインド~太平洋域に広く見られ、日本においても琉球列島のサンゴ礁域でよく見られます。比較的小型の種で全長10センチほどです。
特徴は主鰓蓋骨に大きな黒色斑をもつことがあげられますが、個体によっては薄いことがあります。背鰭や臀鰭に見られる赤色斑は個体によっては見られないこともあります。
グアムカサゴにはいくつか似た種が知られていますが、分類は混乱しており、従来「サンゴカサゴ」とよばれていたものはグアムカサゴの色彩変異である可能性が高いとされています。
グアムカサゴに刺される
筆者は2011年5月、鹿児島県奄美諸島にある喜界島の浅瀬で魚の採集をしていました。
この島は隆起サンゴ礁でできた島で、干潮時にはたくさんの潮だまりが姿を現し、その中では多数の亜熱帯の魚が見られるのです。
畳の半分くらいの大きなサンゴ岩をどけると、その下にはネズスズメダイやイチモンスズメダイ、タナバタウオといった小型の魚が多数網に入り、それをバケツに移動しようとしたところ、手の指に激痛が走りました。
網の中には小さなグアムカサゴも入っており、背鰭の棘条に刺されてしまったのです。
指を痛めてしまい、採集をやめて引き上げようか迷った筆者。しばらくすると痛みはおさまりましたが、その影響もあってそれ以降は大きな成果を得ることはできませんでした。
グアムカサゴの背鰭、臀鰭、腹鰭には強い棘条があり、それらの棘条のうち、少なくとも背鰭には毒があるとされています。また、あるいは涙骨棘など、頭部にある棘にも毒があるのかもしれません。
なお、死んでも毒は消えないらしく、2020年に沖縄島産のグアムカサゴ標本を入手したときも背鰭棘に刺されてしまい、再び痛い思いをすることに。触れる際は棘の角度に気をつけるなど対策はしっかりしていたはずなのですが……。
もっとも、この仲間の有する鰭の棘条は薄手のビニール手袋などは破ってしまうことがあり、つけていても頼りにはならないことも多いです。採集の際は軍手など、厚手でしっかりしたものが効果的です。
関東の磯でも近縁種<イソカサゴ>に要注意
グアムカサゴは熱帯のサンゴ礁に生息していますが、年によっては八丈島や高知県西部のタイドプールでも見ることがあります。観察や採集のときには手で触れないように注意しましょう。
これらの地域では、磯で見られる毒魚の代表ともいえるハオコゼ科のハオコゼがあまり見られず(少なくとも筆者はそれらの場所では見たことがない)、ネッタイフサカサゴの類とともに、ハオコゼのニッチ(生態的地位)を占めているのかもしれません。
しかしながらハオコゼが多く見られる九州以北の磯にも、グアムカサゴの近縁種が生息しています。
グアムカサゴと同じイソカサゴ属の魚で、属の標準和名にもなっているイソカサゴScorpaenodes evides(Jordan and Thompson, 1914)という魚です。
イソカサゴもやはりフサカサゴ科としては小型の種であり、全長10センチほどです。
イソカサゴは全身が赤みを帯びていることが多く、一見、小さなカサゴのように見えますが、体側の背部に小さな白い点はみられず、下鰓蓋骨上に暗色斑があることで見分けられます。
そしてこのイソカサゴも背鰭などの棘に毒を有しており、刺されるとかなり痛みます。
しかし磯遊びの際に注意すべき魚として紹介されるのは、大抵先述したハオコゼのほか、アカエイ、オニオコゼ、アイゴ、ゴンズイなどであり、イソカサゴが掲載されていることは少ないです。
イソカサゴに限らず、毒を有する生きものは紹介されるもの以外でも多いので十分に注意しましょう。
ちなみにイソカサゴやグアムカサゴは観賞魚として飼育されることもまれにありますが、生き餌を与える必要があることや、ほかの魚を食べてしまうこともあることなどから、あまりほかの魚との飼育には向いていないところがあります。初心者には難しいかもしれません。
もちろん、飼育しきれなくなったといって放流することは慎まなければならないので、安易に採集し持ち帰らないようにしましょう。
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