動物には「学名」と呼ばれる世界共通の名前が付けられており、種は二名法(属+種)と呼ばれる形で表記されます。
学名に用いられる言語は日本人には馴染みの薄いラテン語であることから、動物の学名まで覚えている人は多くありません。しかし、中には覚えやすい学名を持つ動物もいるのです。
例えば、一部の魚では和名がそのまま学名に使われているので、和名を覚えてしまえばそのまま学名を覚えることができます。
覚えやすい!種小名と標準和名が同じ魚
最も名前が覚えやすいのは、標準和名と学名が同じ魚です。
ただし、同じといっても学名全体が標準和名と一致している訳ではありません。学名の後半部、種小名が標準和名と同じパターンです。
これに該当する魚の例として小笠原諸島の固有種オビシメ(Scarus obishime)やトラザメ(Scyliorhinus torazame)などが挙げられます。
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エイ類の学名
エイ類においても種小名と標準和名が同じ魚がいくつか見られます。
例えばトビエイ目トビエイ科に属するナルトビエイの学名はAetobatus narutobieiであり、種小名の「narutobiei」は標準和名が由来です。
さらに、同じトビエイ科のトビエイの学名はMyliobatis tobijeiですが、こちらの種小名も標準和名に由来しています。
エイ類にはこのほかにも標準和名が種小名に用いられているケースがあり、トビエイ目で最もよく見られるアカエイ(Hemitrygon akajei)や、2024年に新種記載されたヤッコエイ(Neotrygon yakkoei)がその例です。
近縁種が種小名に使われている魚
標準和名と種小名が一致している魚は覚えやすいですが、ややこしいことに種小名に近縁種の標準和名が使われているケースがあります。
ホウボウ科カナガシラ属に分類されるヒレナガカナガシラは土佐湾や南シナ海に分布し、本科のなかではなかなか見られない魚です。そんなヒレナガカナガシラの学名はLepidotrigla kanagashira。
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同じカナガシラ属であるカナガシラの標準和名が用いられているのです。もしかするとカナガシラ属に由来した種小名かもしれませんが、どのような経緯でこのような名が付いたのか気になりますね。
似たケースはイットウダイ科イットウダイ属のテリエビスでも見られます。本種は国内において南日本に多く見られる魚で、沖縄や小笠原諸島で普通種です。
テリエビスの学名はSargocentron ittodaiであり、なぜか本種が属する科名、属名、または近縁種であるイットウダイの名が用いられています。
種小名に別名が用いられている魚
種小名がその魚の標準和名ではなく、別名や地方名に由来している場合もあります。
トビウオ種の学名はCheilopogon agooですが、種小名、亜種名は鳥取県や長崎県におけるトビウオ科の地方名「あご」に由来。本種はシーボルトが長崎県から持ち帰った標本をもとに学名が命名された際に、シーボルトがメモした地方名が種小名の由来と言われています。
また、カレイ科に属するアサバガレイの学名はLepidopsetta mochigareiであり、なぜか種小名にmochigareiという耳慣れない魚の名前が使われています。実はこのmochigareiはかつて、呼ばれていたアサバガレイの呼び名だそうです。
実際、1965年に日本動物学会から出版された『佐渡内水面の動物相』では羽茂川から採集された魚類としてフナ、ドジョウ、メダカのほかにモチガレイ;アサバガレイ稚魚3尾と記されており、アサバガレイがモチガレイとも呼ばれていたことが分かります。
学名は面白い 歴史を読み取れるものも
このように、あまり馴染みのない学名ですが、一部の魚は比較的覚えやすい名前をしています。
中には学名からその魚の歴史を読み取れるものもあるので、気になった魚や動物の学名は積極的に調べて見るのも良いかもしれませんね。
(サカナト編集部)