野生生物の中には食用としてだけでなく、ペットとして需要のある種も少なくありません。近年はインターネットによる生体取引が急増しており、野生生物の採集圧や絶滅のリスクが高まることが懸念されています。
特に生物の色については市場価値に反映されやすいとされ、珍しい体色タイプの需要が高まることで、特定の集団が過剰に採集される恐れがあるようです。
しかし、様々なカラーバリエーションを持つ生物において、体色・地理的分布がオンライン市場の売買戦略や地域別の採集圧にどう結び付くのかは明らかにされていませんでした。
そうした中、摂南大学の國島大河講師はサワガニ種群(以下:サワガニ)を対象にオンラインオークションでの取引データを解析。体色が市場や採集圧へ与える影響を明らかにしました。
この成果は『Nature Conservation』に掲載されています(論文タイトル:Difference in sale strategies drives patial heterogeneity in collection pressure through on line auctions: the role of body color variation in the Japanese fresh water crabs, Geothelphusa dehaani species complex)。
多様な色彩を持つサワガニ
野生生物の中には食用としてだけでなく、ペットとして需要のある種も少なくありません。
日本で親しまれている「サワガニ」もその一つで、食用としてはもちろんのこと鑑賞用としても需要がある甲殻類です。
サワガニにはいくつかのカラーバリエーションが存在し、伝統的に茶色型、青色型、赤色型の3タイプに区分されています。
サワガニ(提供:PhotoAC)また、日本産のサワガニ Geothelphusa dehaani は長らく1種とされてきたものの、近年の研究によりサワガニには複数の種が含まれていることがわかっているようです。実際、2023年には青森県と熊本県からそれぞれ Geothelphusa属の新種が記載されました。
さらに、全国規模での遺伝集団構造が判明し、地理的境界を持つ5つの集団が知られています。
インターネットによる生体取引
近年はインターネットによる生体取引が急増しており、野生生物の採集圧や絶滅の危険性が高まることが懸念されています。
特に、生体取引において生物の色彩は市場価値に反映されやすいようです。珍しい色のタイプの需要が高まった場合では、特定の集団への採集圧が高まる恐れがあるといいます。
しかし、様々なカラーバリエーションを持つ生物において、体色・地理的分布がオンライン市場の売買戦略や地域ごとの採集圧にどう結び付くのか解明されていません。
サワガニ(提供:PhotoAC)そうした中、摂南大学の國島大河講師は多様な体色を持つサワガニを対象とし、オンラインオークションの取引データを解析。生物の体色がオンラインオークションの生態売買や採集圧に与える影響を明らかにしました。
11年にも及ぶ取引を抽出
解析では、2013年1月1日~2023年12月31日(11年間)に主要オークションサイトにて成立したサワガニの生体取引を抽出。写真などを基に5つの体色タイプに分けられています(茶色型:DB、赤色型:RD、青色型:SB、その他:OT、混合:Mix)。
加えて、各取引の個体数や価格、日付、採集地、発送地などのデータを利用し、体色タイプ別の販売様式と販売者の行動の分析されました。
4万6000個体以上の取引
解析の結果、11年間で3431件、4万6319個体、総額425万円の取引が明らかになっています。
カテゴリーとしてはほぼすべてが「ペットカテゴリー」での売買であり、取引の過半数が野生個体であることが分かっています。また、体色タイプにより採集地の傾向が異なり、DBが広域から採集される一方で、RD、SB、OTの採集地は局所的だったようです。
これらの取引の83パーセントは個人での出品であることに加え、93パーセントの取引で採集地と発送地が一致したことから、地元住民が採集・出品しているものと推測されています。
解析で判明した2つの販売パターン
取引データの解析では体色タイプによって2つの販売パターン(大量かつ安価で取引当たりの個体数が多い、少量かつ高価で取引当たりの個体数が少ない)も見出されました。
今回の研究では大量かつ低単価を「薄利多売戦略」、少量かつ高単価を「厚利少売戦略」と定義しており、前者には茶色型(DB)・混合(Mix)、後者には青色型(SB)・赤色型(RD)・その他(OT)が該当します。
サワガニ(提供:PhotoAC)一般的に、色彩ごとに分布域が限定される場合は、特定の色彩を持つ集団がより過剰に採集されるといいます。
しかし、予想に反してサワガニにおいては広域分布のDBへの採集圧が高く、反対に局所的に分布するSB、OTでは低く保たれていたのです。
その一方で、サワガニは成熟までに4年を要することを考慮すると、過剰な採集が続くことによりDBを含む集団に悪影響が及ぶ可能性があるとされています。
サワガニの分類で大きく変わる可能性も
サワガニは近年、隠蔽種の存在が示唆されたり、新種が記載されたりしている生物。今後、サワガニの分類が更新されることにより状況が大きく変化する可能性もあるといいます。
具体的には新種記載されることにより市場価値が高まり、過剰な採集を生じさせることが懸念されています。実際に新種記載直後にオンラインオークションで高額の取引が確認された事例もあるようです。
そのため、オンラインオークションのプラットフォームには、サワガニの分類が更新された際に過剰な採集を抑制するため、迅速な対応が求められています。
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