環境変化による水温上昇は、海洋生物の分布に大きな影響を与えます。
ウミウシ類は特定の餌資源に依存する性質に加え、水温や水質に敏感な生物。そのため、近年は海の状態を示す指標生物として注目されています。
しかし、ウミウシ類の同定は難しく、体系的なデータの蓄積が進みにくいといった課題もありました。
そうした中で、長崎大学の研究チームは、長崎県沿岸で蓄積された記録と定期的なスクーバ潜水調査により長期比較を実現。生物多様性の変遷を検証しました。
この研究成果は「PeerJ」に掲載されています(論文タイトル:A different world: temporal changes in the community structure of sea slugs (Heterobranchia) in northwest Japan spanning more than a half-century)。
水温上昇による生物相の変遷
近年、気候変動に起因した海洋環境の変化が日本各地で報告されています。
特に海水温の上昇は、魚や藻類といった海洋生物の分布を変化させる要因の1つです。その影響は南方性の魚が関東に出現するなど、我々の目に見える形で現れています。
ウミウシは海の指標生物
海洋無脊椎動物の1グループであるウミウシ類は、特定の餌資源に依存すること、水質や水温の変化に敏感であることから近年、海の状態を示す指標生物として注目されています。
シロウミウシ(提供:PhotoAC)一方、ウミウシ類の観察と同定は難しく、体系的なデータが蓄積されにくいといった課題がありました。
過去のデータと潜水調査の組み合わせ
今回、長崎大学の加藤理子と八木光晴 准教授によって行われた研究では、長崎県南西部沿岸のウミウシ類を対象とした、50年以上の生物相変化が分析されています。
さらに、2023~2024年に実施した計27回のスクーバ潜水調査を実施。岩礁帯や砂礫域など多様な生息環境を対象とし、発見したウミウシの水中写真の記録、必要に応じた採集、種同定が行われました。
研究では、過去に蓄積されたデータとスクーバ潜水調査で得られたデータを統合し、長崎県南西部沿岸の生物多様性の変遷を検証しています。
47種ものウミウシ類を確認
潜水調査では合計304個体、コモンウミウシやシロウミウシなど47種ものウミウシ類が確認されました。この種数は2001~2003年に記録された同海域の35種と比較して1.34倍となっています。
コモンウミウシ(提供:PhotoAC)さらに、1960~1980年代に記録された79種との比較では、一部の種が姿を消し新たな種が台頭しつつあることが示されたのです。
姿を消したウミウシ類も 気候のシフトが進行
研究では、個体数の割合に基づいた群集組成の算出もおこなわれました。
その結果、2000年代初頭にはアメフラシ類が優占していたものの、近年は熱帯・亜熱帯のウミウシが急増していることが明らかになったのです。
アメフラシ類(提供:PhotoAC)また、種の気候適応領域に基づく分類をおこない、過去の群集との比較をした結果、最新の調査では熱帯~亜熱帯種が全体の55.3パーセントを占めることが判明。20年前の42.9パーセントから大幅に増加していたのです。
一方、50年前と20年前に記録されていた亜寒帯・寒帯性種は姿を消し、気候のシフトが進んでいる可能性が示唆されています。
また、海面水温の長期時系列データとの比較解析では、ウミウシ群集変化と海水温の上昇傾向が一致していることも明らかになっています。
国内初の成果
今回の研究によって、気候変動に起因した海洋環境の変化がウミウシ群集に大きな影響を与えていることが、国内ではじめて実証されました。
この成果は、日本の沿岸域の生態系を理解する上で重要な知見になっていくでしょう。
(サカナト編集)