長崎大学水産学部の八木光晴准教授らの研究グループは東シナ海での深海調査により、オオグソクムシが特定の水深帯に高密度で生息していることなどを明らかにしました。
この研究の成果は「Journal of Crustacean Biology」に掲載されています(論文タイトル:Intraspecific size differences in relation to depth of the deep-sea isopod, Bathynomus doederleini Ortmann, 1894 (Isopoda: Cirolanidae) )。
深海の腐肉食者
低温・高圧・暗闇といった極限環境が広がる深海。
ここでは、浅海とは異なる生態系が形成されています。深海に沈降する有機物は貴重なエネルギー源であり、それらを利用する腐肉食者は、深海の生態系でなくてはならない存在です。
深海の移動性腐肉食者<オオグソクムシ>
オオグソクムシ類は、代表的な深海の移動性腐肉食者で、有機物の分解・際利用に関わる主要な分類群の1つとして知られています。
オオグソクムシ類(提供:PhotoAC)一方、深海生物の観察や長期的な調査は難しく、腐肉食者の生態や成長段階ごとに、どの水深の環境勾配に沿って分布するのかも、詳細なデータがなかったようです。
成長段階で棲み分けがある場合、個体群の分布や資源量の精度にも影響することから、一定条件下で定量化されたデータが求められていました。
九州西方海域の深海
オオグソクムシ Bathynomus doederleini は北西太平洋に分布し、日本からも記録がある種です。
しかし、東シナ海からは報告例がほとんどなく、九州西方海域(五島海盆周辺)における生息状況は十分にわかっていませんでした。この海域は本種の東シナ海における北限域に位置すると考えられているようです。
加えて、北限域での出現量や体サイズ構成の把握は、深海の生態系理解だけでなく、将来の比較基準としても重要とされています。
複数回にわたるベイトトラップ調査
こうした中で、研究グループは2021年12月から2024年12月にかけて、五島海盆周辺の深海域で「ベイトトラップ調査」を7回実施しました。
調査では、水深151~821メートルの19地点でトラップを設置。各地の緯度経度、水深、水温、トラップ投入時間などの条件を統一した上で記録が行われました。
中深度帯で捕獲数が最大に
ベイトトラップでは合計1152個体ものオオグソクムシが捕獲されています。
オオグソクムシ類(提供:PhotoAC)捕獲努力量あたり捕獲数は水深帯で有意に異なっており、水深400~500メートルでは捕獲数が最大で、700メートル以深で急激に減少。さらに、最浅(151メートル)と最深(821メートル)からは捕獲されなかったようです。
最も多くの個体が捕獲された地点(水深337メートル)では201個体となっており、五島周辺の深海に本種が高密度で生息することが示唆されています。
小型個体は浅い水深に分布
オオグソクムシの体サイズについては幅広く、最小2.9センチから最大12.9センチの個体が捕獲されています。
体サイズごとの分布は、各水深帯の最小5パーセント個体の大きさは深くなるほど大きくなる傾向が系統的に支持されました。つまり、小型の個体が浅い水深に偏ることが示されたのです。
一方、最大5パーセントの体サイズは水深と相関がなく、深浅でほぼ一定であることが明らかになりました。
五島周辺の深海域
今回の研究によって、五島列島南方海域から1152個体ものオオグソクムシが捕獲され、本種がこの海域に高密度で生息している可能性が示唆されました。また、水深400~500メートルに本種が多く生息すること、小型個体が浅い水深に偏ることも示されています。
この成果は、北限海域における資源量と成長段階による棲み分けを示す重要な基礎データとなりました。研究グループは今後も五島周辺の深海域の生態系を評価する基礎情報を蓄積していくとのことです。
(サカナト編集部)