幼少時から生き物が好きでした。
ひとりで過ごすことが多かった私は自宅の庭で腹ばいになって、ひたすらアリが巣を出入りするのを見ていたり、海辺に遠足に行ったときも、ひとりタイドプールに行って、タテジマイソギンチャクが触手を出す瞬間を今か今かと待っていたりする子どもでした。
幼少期にひらいたプランクトン図鑑で出会った世界
学校や市の図書館で過ごすことも好きでした。多くは貸出不可ではあったものの、古い物から新しい物までいろいろな種類の図鑑を見ることができたからです。
特に保育社の原色図鑑シリーズが好きで、その中でも『日本淡水プランクトン図鑑』と『日本海洋プランクトン図鑑』を本棚の片隅で見つけた時には、オーバーな表現ですが世界に潜む秘密の一つを知ってしまったような感覚に陥りました。
さらにテレビでプランクトンの映像を見る機会もあり、あっという間に沼にはまったのでした。
本当に勲章みたいな形で驚嘆したクンショウモ、同じく三日月そっくりなフォルムが楽しいミカヅキモ、柄がバネのようにくるんくるんと巻いていて、伸び縮みの動きが魅力的なツリガネムシ、透明な惑星がたくさん回っているようなボルボックスの群れ……摩訶不思議な生物との出会いは、大いに好奇心をかき立てました。
顕微鏡で拡大して見るのがマイブームに
ちょうどその頃に両親から顕微鏡を買ってもらい、いろいろなものを拡大して見ることがマイブームになっていたので、池や田んぼから、あるいはバケツや手水鉢に貯まっている水を採取して、何かプランクトンが見えないか試行錯誤していた記憶があります。
子ども用の顕微鏡なので、図鑑に載っているような大きくてはっきりした図像には見えませんでしたが、それでもミジンコのユーモラスかつ美しい構造や、泳ぐのが早すぎて、じっくり観察するのも難しいゾウリムシのかっこよさを今でも覚えています。
唯一うまく描けないのがプランクトンだった
現在、絵を描く仕事をしています。主に描いてきたのは鳥類、またガラスボトルを使用した小作品の多くはキノコや変形菌などが主なモチーフです。水生生物もたまに描いてきましたが、なぜか唯一うまく描けないモチーフがプランクトンでした。
実際、何度か絵画やイラストにしましたが(一部はグッズ用イラストとして、販売もしたことがあります)、どうもイメージが違う。上っ面だけを描いているようで、深みや繊細さが出ない。もどかしいくらいしっくり来ないのでした。
どうしてそうなってしまうのかを、少し時間を割いて考えたことがあります。たどり着いた結論が「好きすぎて描けない」からではないかということでした。
あまり好きなことを職業にすると、嫌いになってしまいそうだから趣味にとどめておく、という考え方があります。それと似たような現象なのかもしれない、と。鳥も虫も動物も好きですが、プランクトンは何かもう一歩、踏み込めない感じがしていました。
ポストカード制作に挑戦して気づいたこと
今年、ご縁があってSAKANA BOOKSで、水生生物をモチーフにした作品を展示販売することになりました。この機会にポストカードを制作しようと思い立ち、モチーフの一つにボルボックスを選びました。自分にとっては挑戦です。
悪戦苦闘すること数日。完成したボルボックスのイラストを見て、一つの壁を乗り越えたという実感とともに気づいたことがあります。それは好きすぎて描けなかったのではなく、単に画力不足だったという、なんとも情けない事実でした。
プランクトンの複雑かつ繊細な構造を表現するには、画力も表現力もさらにアップさせないといけなかったのです。ここから、プランクトンの魅力を作品の中でうまく伝えられるようになるという、新たな課題と目標ができました。
水生生物との思い出に残るエピソードや、作品制作との繋がりなどを綴っていきたいと思います。
(サカナトライター:atelier*zephyr)